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「とある日の保健室」
【学園物 恋愛小説】

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「とある日の保健室その2」-2

さらに翌日。
「…………」
どうやら今日から始まったらしい、このクラス集団無視。これからどんどんグレードアップしていくのだろうか。そう言えば昨日の帰りは、靴の中にミシン針が仕込んであったな。あれはさすがに効いた。
チャイムが鳴る。 昼休みだ。
給食を食べるのも、あと何回だろうな。卒業したら、もう食べられなくなるし。
給食係は当番制。名簿番号で班がいくつか作られ、一班から一週間ごとにローテーションし、四班で終わる。また一班に戻ってローテーションして……の繰り返しだ。
俺は三班。今週は二班が給食当番だから、俺は器を持ってそいつらの前を通っておかずやらご飯やらをもらうわけだが……奴らは、くれなかった。
マスクがモゴモゴと動いている。何か言っている。
死ね、橘。
確かにそう言っているように見えた。先ほどから延々と繰り返している。
「へぇ……お前が中心人物なのか?」
薄ら笑いを浮かべた俺は、立ち止まったまま訊いた。マスクごしに、そいつの声が聞こえる。
「黙れ」
それだけ言い終わったあと、俺の視界は濡れた。熱を保った液体をぶちまけられたらしい。
小さく切られたしいたけ、人参、大根……汁をよく吸っている。それらが俺に付着した。先に汁が来て、そのすぐあとか、ほぼ同時に具が来た。
「熱っ!」
小さく声をあげ、俺は尻餅をついた。
気にする者は、周りには一人もいない。
完全なる孤独。
いつまで続くのだろう、俺の孤軍奮闘は。
「……おい、どうしたんだ?片付けないのか?……ははは!」
白衣野郎……下卑た笑い声で俺を見下ろしてやがる。
くそ!学ランの中まで濡れてやがる。あれほど熱かった汁も、今やすっかり冷めてただの冷水同様だ。ただ違うのは、少し粘り気があるという事ぐらい。
(気持ちわりい……)
そう思うのも束の間、敵は一人だけではなかった、という事に気付いた。
「うわ!」
今度は冷たい液体が顔にかかった。
……よく冷えた牛乳だ。
今回ばかりは給食のおばさんを恨むぜ。風邪を拗らせるかもな……。
「汚えなあ!さっさと掃除しろよ!」
俺に牛乳をかけてきたそいつは、まるで汚物を見るかのような視線を向けてきた。冷たい眼をしている。
俺は逆らわなかった。今は耐える時だ。
黙って立ち上がり、雑巾を取りに行く。また寒いメに遭わなければならないと思うと、憂鬱になってしかたない。



その日の帰り道。学校にて。
この一日は、中学生活で最悪な日だ、とその時思っていたが、本番はこれからだった。今までのは、言うなればリハーサル、予行演習。しょせん本番とは比べようもない。
「…………」
完全に憂鬱だった。
カッターシャツは汚れ、変なシミのついた学ラン。風邪は拗らせなさそうだが、親にはど叱られる事、最早必至。
完っ全に、憂鬱だった。
「くそぉ……!」
悪態をついても仕方無いのだが、つかずにはいられない。
何か、こう、一矢報いる事が出来ないものか……そんな事を考えていると、
「うわ!」
三人ほどだろうか、俺を抱え、どこかに連れ去ろうとしていた。口に手を当てられているので、ろくに叫び声もあげられない。
「おとなしく俺らに従え」
「場所を移動するか……」
「体育準備室に運ぼうぜ」
体育準備室と言えば、教師も生徒も授業以外で滅多に訪れる事のないランキング第一位。 あそこに閉じ込めるつもりか?
「さあ、行こうか」
不敵な笑みを浮かべたそいつらは正に、殺気立っている、という言葉がぴったしだ。思わず身震いした。一体全体、何をするつもりだ?



そこから先は、血だらけになった視界しか覚えていない。頭やら腕やら足やら、とにかく痛かった。それだけ。
わずかに思い出せるのは、終始笑顔のあいつらが掲げる、血が大量に付着した金属バットと……救急車の中、ぐらいかな。


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