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「消えぬクリスタルハート」
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「消えぬクリスタルハート」-3

それから、親父に無理を言って、仕事が終わってから自分の作品を作るのに没頭した。
赤熱したガラス種を、熱いうちに形作る。
しかし、上手くいかず、作ってはやり直す、を繰り返す。

失敗の度、己の力量不足に苛立ちを覚える。
しかし、止めない。
諦めない。
(投げ出してたまるか…)
暑さで汗が落ちる、それがガラス種に垂れ、色むらができる。
やり直し。
新しい種、大まかな形を作るが、気に入らない。
やり直し。
また新しい種、途中で冷めてしまい作れない。
やり直し。
やり直し…。

 徹夜のすえ二日目、やっと出来た。
一つ目が。
これは頭部になる。
首の曲がり具合を出すのが大変だった。
残りは胴体。
種を取り出し、作業に没頭。
また、やり直しの繰り返し。
落ちた汗で色むらができる。
これで五度目。

学習できない自分を殴る。
そしてだんだん、心身ともに疲れてきた…。
その疲れが睡魔へと変わる。
寝ないように、また自分を殴る。
彼女に会う時、顔の形が歪んでなければ良いが…。

休憩の間、彼は電話をかけた。
相手は彼女。
呼び出し音が鳴る、手が震える、鼓動が早くなる。
しっかりと気を留め、相手が出るのを待つ。
「……」
しばらく続く機械音。
それが止まる。
「も、もし…」
『留守番電…』
しかし、聞こえて来るのは録音された、やたら綺麗な声だった。
すぐに通話を切り、またかける。
「……」
(ダメか…)
そう思い、切ろうとした。

「…もしもし?」
「え。あ、はい!」
電源ボタンに指を添えたと同時に声が聞こえてきた。
急いで耳元まで携帯を戻し、焦りながら言葉を紡ぐ。
「えと、あ、あの…」
電話をかける前に何度もイメージトレーニングをしたが、実際に話してみると、イメージ通りになんか少しも行かないと実感する。
「あ、あれから、三日…いや、12時過ぎてるから四日目かな?」
「…そうだね」
「それで…今日の夜七時に、ふ、噴水に来て欲しい、んだ…」
語尾が極端に弱くなる。
(どうして僕は度胸がないんだ…!)
自分で自分を叱咤する。
本当に意気地無しで嫌になる。
「ど、どうかな?」
「…何かあるの?」
「うん、見てほしい物があるんだ」
そしてしばらく沈黙。
心臓の鼓動がよく分かる、今まで生きてきた中で一番大きく、早く動いてるのではないだろうか。
それを頭の隅っこで考えながら答えを待つ。
「…分かった」
「ありがとう、じゃあ七時に」
「また遅れるの?」
迷わず即答する。
「時間より早く行くから大丈夫だよ」
それを聞き、電話の向こうから笑い声が聞こえる。
だが、それは一瞬。
すぐ、淡々とした口調に戻る。
「じゃあ待っててね」
「うん、また」
会話が終わってから、最初の頃よりは随分大人しくなった手で通話を切った。

「…ふぅ〜」
酷く疲れた気がする。
休憩が休憩ではなくなってしまった。
「けど、一番の山場は過ぎたよな。あとは、あれをくっつければ終わりだし…。あ…」
電話をかける前に、胴体が完成した。
頭部とは違って細部が少なく、早めに終わらす事ができた。
そして、残るは二つをくっつけるだけ。
少量のガラス種を使ってくっつけるだけなのだが、これがやたら難しい。
そう、難しい。
もう一度言う、難しいのだ。
そして今、それを行おうとしている。
失敗すれば、一からやり直し。
すでに彼女と約束を済ませた今、失敗は許されない。
「あぁしまったぁ!」

思わず叫んでいた。
そして頭で、失敗できない、と改めて考えてみると。
「あ、あぁ…あわわ…」
電話した時よりも激しい震えが襲って来た。

この後、決死の思いのおかげで、なんとか成功する事ができた。
しかし、それに至るまで全く腹がくくれず、数時間たってから挑戦したのは秘密である。


四日前に車を飛ばして通った道を、前より遥かに早い時間帯に通って来た。
噴水までは走らず、ゆっくり歩いて行った。


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