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「消えぬクリスタルハート」
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「消えぬクリスタルハート」-6

そう思った時には、彼の胸の中に飛び込んでいた。
久しく忘れていた温かいぬくもり。
細いくせして以外としっかりとした身体。
優しく抱き締めてくれる、ちょっと固めの手。
心から安心できる、柔らかな抱擁感。
全ては、自分の築き上げてきた結果、手に入れた物。
これを手放す?
ありえない。

近過ぎて、気付かなかった宝物。
気付いた今、もう手放す事はない。
けど、今は…。
「ごめん…ごめんね…!」
謝まりたい。
そして、ずっと離さないで欲しいと願う。
「…いいよ」
「ご…ごめ…ん…」
「いいから…」
「あぁぁぁ…!」
感情の堤防が耐えきれず、止めようのない気持ちが溢れ、それに逆らう事なく、彼女は泣いた。
謝りながら…。
ただ…。
泣いた…。

…彼女が泣き止んだ今、二人は星空の下で抱き合っていた。
「…ねぇ」
「ん?」
「もし指輪が必要になったら…宝石じゃなくてガラスがいい」
その言葉に、彼は笑って答える。
「ダメだよ」
「どうして?」
疑問の色が顔に出ている。
否定の理由を述べる。
「水晶(クリスタル)にするからだよ」
そして、唇を重ねた。
彼は想いを伝え、彼女はそれを受け止めた。
そんな星空の下、二人は、誰にも邪魔される事なく、愛し合った…。


 −次の日の夜−
「んで、また作ってる訳だ」
「まぁね、これで連日睡眠不足の記録更新中」
「そのうち三日は徹夜なんだろ?」
「休憩で仮眠とってたとは言え、そうなるかな」
仕事を終えた彼は、工場でガラス種を作っている。
理由は彼女のために、またガラスの白鳥を作るためだ。
実際休みたいと思っているのだが「傷付いても、何度でも作る」と言ってしまったため、そうもいかない彼であった。
「ところで…昨日はオールナイトだったのか?」
「はぁ!?」
「夜中、若いカップルが仲直りしてイチャイチャしてたんなら、行くトコまで行ったんだろ?」

からからと笑って言う友のスネを、足で蹴っ飛ばす。
「あいたっ!」
「このド阿呆」
「なんだよ、違うのかよ」
「いや、否定はしないけど…」
口をごもごもさせながら言う。
その言葉に反応した友は、ニヤニヤしながら、親指を立てて…。
「漢になったな!」
「だまらっしゃい。それに、随分前から漢になってたって」
「ほぇ?俺は聞いてないぞ」
「別に言うもんじゃないだろ」
その答えとして友は「それもそっか」と言って帰り支度を始める。
「今日はちゃんと寝ろよ。昨日は彼女のひざ枕で寝たかもしれないけど…まぁ運動した訳だし?今日休まないと倒れるぞ」

友は冗談を入れて、優しい気遣いの言葉をくれる。
それに笑顔で答えた。
「ありがと。今日こそは寝る…」
気を抜いたせいか、つい口が滑ってしまう。
慌てて口を塞ぐが間に合わず、友はしっかりと反応してきた。
「今日こそは?」
「…あー、えーと…」
明後日の方を見ながら白を切る。
「ま、まさか、マジでオールナイトだったのか!?」
「ち、違うよ!ただ気が付いたら…朝になってて…」
「絶倫」
「違う!」
思わず反射的に吠えてしまう。
「あーぁ、つまんねつまんね。いいねぇ若いって。あー熱い熱い」
「う、うるさいなぁ」
照れ隠しに作業の方に専念する。

「ほら」
友を振り返ると、何かを投げてくる。
それを片手で取れば、煙草の箱くらいの大きさで、家族計画として使用する六個入りのゴム製商品…いわゆる近藤さんという訳であって…。
「避妊は大切にね♪」
「雷子ちゃん風に言うな!」
それを投げ付けようとする。
たが、さっさと友は逃げるように…いや実際逃げたのだが…帰ってしまい、投げようと上げた手を力無く下ろした。
「…あれ?」
ふと、箱がビニール包装されてない事に気付く。
中を確認すると、商品と注意書きの紙と、小さな手紙が入っていた。
それに小さく「おめでと」と書いてあった。

それを小さな声で音読する。
…嬉しかった。
「まったく、自分の口で言えっつーの」
そうぼやく口は、笑みの形。
嬉しさを抑えきれず、顔に出ているようだ。
「でも、それがあいつの良い所でもあるかな」
今は帰ってしまった友に、彼ははっきりと告げる。
「ありがとう」
友の助言があってこそ、彼は彼女との絆を繋ぎ直す事ができた。
御礼の言葉として、心から感謝して、その言葉を送った…。

…それから数ヶ月の歳月が過ぎた。
彼と彼女の部屋には、首に水晶の指輪を架けた二羽のガラスの白鳥が、日の光を浴び。
美しく、輝いている。


−了−


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