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お蓮昔語り
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お蓮昔語り〜其の三『血』〜-2

「…あの人…?」
「あんたさんをうっとこまで運んでらした、新選組の小泉はんの事どすか?」
やっぱり私、あの猛火から助け出されたまま気を失ってしまったんだ。
「小泉…。その人が、私をここまで抱えて連れて来てくれたんでしょうか?」
背の高い、新選組隊士。
…私と同じ苗字なのね。
「えぇ。それより、市中の方はえろう難儀なことやったなぁ。うちは、この家の主、良蔵の妻で瀧(たき)と申します」
眠り続けた三日の間に私の身の上を聞いたのか、お瀧さんは涙ぐみながら私の手を握る。
「ここは亭主とうちしかおらんし、ゆっくりしとったらええよ。小泉はんもえろう心配してらしたさかいなぁ」
(…優しい人)
「ありがとうございます。ご迷惑お掛けして申し訳ありません。私の名は、小泉蓮と申します」
聞きたいことは山ほどあるのだけれど、まずは運ばれたのがここで良かったと、心からそう思った。
そして。
「あのっ!お瀧さん」
「なんですやろか?」
とりあえず、何よりもこれが気になる。
「あの…ほとんど見ず知らずの私を助けてくださった『新選組の小泉様』って一体…」

『どんな方なんですか?』
そう尋ねようとして、私は布団から身を乗り出したのだけれど。
続く言葉は、家の中を吹き抜けた柔らかな風に遮られ。
開いた戸口に見えたのは、夏の夕暮れを背にした長身の人影。

「―――新選組隊士、小泉淳之介です。元気になったみたいでよかった…お蓮さん」
よく通る明るい声でそう告げて――笑った。


お瀧さんの淹れてくれたお茶はとても美味しくて、渇いた心と身体中に沁み渡る思い。
張り詰めていた糸が緩んだかのように、ため息がこぼれた。
そして。
静かに視線を上げて、私は目の前でお茶を啜るその人を見つめる。
新選組隊士―――小泉淳之介様。
隣近所に用があるからと、美味しいお茶を自らは味わうこともなくお瀧さんはそそくさと出かけてしまって。
残されたのは、私たち二人。
でも。
どうやら小泉様とお瀧さんとはとても親しい間柄のようで、彼は家人不在を全く気に留める様子がない。
(…当然かぁ)
よほど信頼のある間柄でなければ、身元もわからぬこんな私を預けたりなどできるわけがない。

(…それにしても…)
なんだか、のんびりした方なのね小泉様…。
先ほどから、耳に聞こえてくるのはお茶を啜る音のみ。
縁側でひなたぼっこしている好々爺のようだわ…。
きっと、この様子だけを見れば誰しも、この人が壬生狼であることなど信じられないだろう。
でも。
三日前、燃え上がる炎の中で私を抱えて駆け抜けた素早さと鋭さは、やはり新選組としてのものなのだと思う。
人を、斬るのかな…この方も…。


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