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お蓮昔語り
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お蓮昔語り〜其の一『桜』〜-1

旅立ちの日の朝に、あの人は振り返って微笑んだ。
そして。
「すまない。きっと、もう会えない」

静かに去っていく、後ろ姿。
知っていたわ、そんなこと。
知っていて、それでもすべてを受け止めたの。
あなたの、立ち向かう強さも。
迷う弱さも。
未来(さき)を見ようとしない狡さも。
今しか生きることのできない切なさも。
ーーーすべて、わかっていたから。
だから、後悔なんて絶対にしないの。
笑いながら死地に赴く、あの人を愛したことを。
刀を振るうその手で、その指で愛されたことを。


「京の人ではないのですね?」
それが、初めての出会いだった。

あの年、私は17歳で。
生まれた江戸を訳あって離れ、京の町に暮らして12年が経っていた。
その頃の京といえば、押し寄せる外国勢を追い払おうとする攘夷の名の下、
それでもその見解を異にする勤皇派と佐幕派のぶつかり合いが続いていて。
町中での切り合いやら捕り物やらが日常茶飯事。
今にして思えば、この4年後に世の中は大きな変化を遂げたのだから、
それはまさに、夜明け前の混沌とした時代だった。


「新選組・・・」
桜舞う春の四条大橋で、無様に転がった私を抱え起こしてくれたその腕。
けれども私は、お礼を言うのも忘れてつぶやいた。
叔父に言われて使いに出たその帰り道、もう、あまり珍しくもなくなった捕り物に巻き込まれて、私は派手に転んだのだ。
助け起こしてくれたのは、浅葱色しただんだら羽織の若い男。

壬生の狼ーーー新選組。

一年前、突如この都に現れた彼らは、それからというもの、不逞浪士を取り締まる警護が勤めだとかで連日、この町を血に染めながら闊歩している。
できることなら、なるべく関わりたくない連中だった。
「痛みは、どこもないようですので。
 助けていただき、ありがとうございました」
ようやくの思いで口にした当たり障りのない言葉を、心配そうにこちらを伺っていたその視線へと不躾に投げつけながら、私は足早にそこから離れようと向きを変えた。
「あなた、京の人ではないのですね」
(・・・はぁ?)
確かに、私の生まれは江戸の地だ。
長年、この都に暮らしているとはいっても、その性格はやはり、京美人というよりは勝気な江戸っ子のまま。
でも、それは志半ばで無念に逝った父の血だから、むしろ誇らしく感じている。


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