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秘中花
【幼馴染 官能小説】

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秘中花〜堰花〜-6

「あなた、きれい」
君の言葉は何故、特別に聞こえたのだろう。
何の変節もない、どうせまたいつもの戯言。
だけど…
たった6つ。雑り気のない澄んだ瞳に、俺を見つけたその瞬間から。
君は、俺のよすがになったんだ。
何をした訳でもない。
ただそこにいるだけで、俺は俺でいられる。
恋とか、愛とか、安らぎとか、意識する前に…
それはきっと、君が何も知らないから。
汚れを、知らないから。


媚薬の名残に、身体が熱く疼く。
昨夜、あれほど交歓っても満たされない。
肉体が軋んでも後孔が痛んでも背徳に疲れても、心が充足を求めて渇いているのだ。
(凛子…)
もう限界だ。
無知な凛子を怖がらせたくなくて、傷つけたくなくて、無理強いしたくなくて、自分を抑えてきた。
ゆっくりと、少しずつ大切にしたかった。
否、詭弁だ。
本当はもっと壊したい。泣かせたい。
狂って喚いて暴れて、俺が嫌いになるほど凛子の全部をめちゃくちゃにしたい。
優しさなんてクソ食らえだ!
ヤッてヤッてヤリまくって、頭が馬鹿になるまで、腰がイカれるまで愛し合いたい。
昨夜までの爛れた淫交を、上書きするまで一晩中。
これが男の欲望。男の本能だ。
我慢すればするほど、亜蓮の中で獣が暴れ出す。
股間が破裂と解放を求めて、ぎしぎしと痛く軋む。
たまらない!
止まらない!
…俺を…鎮めてくれ…。



もう春なのに…。
舞い戻ってきた冬の外気を、衣服越しに震えながらの夕刻。
凛子はひとり、暖房器具を設置する。
この20坪の暖かさにはまだ、足りないけど。
美羽屋こと片山家の屋敷はずれの蔵。
大家族の敷地内でこっそり逢うのに適したこの場所は、伝統と現実が混同している。幼い頃からの、亜蓮と遊び学んだ想い出がいっぱい。
そして初めての…。


16歳の誕生日に、亜蓮がくれた紅襦袢。
身に纏う絹心地はまるで、亜蓮の抱擁。
「本当は振袖にしたかったけど…」
あの、照れ笑いが忘れられない。
赤い振袖が何を意味するのか、梨園生まれの私は知っている。
『赤姫』なんだね…。
周囲を薙ぎ払ってまで愛に一途で、世間知らずなお姫さま。
しかし振袖ではなく襦袢である事実に、凛子は亜蓮の、二重の本意を汲み知る。
「この恋を表沙汰にしたくない」
それでもいい。
たとえ秘密でも自惚れでも、この想いは許されている。
(いつか、いつかきっと…)
この紅襦袢が、私を心強くしてくれる。亜蓮に心まで包まれる安心感。
それだけでも幸せなの。


蔵の明かり取りからもれる、淡い月光。
8畳の座敷には布団と毛布、その二隅の行灯が温かく夜の暗さを追い払ってくれる。
(亜蓮が来る…!)
会えなかった分、待ち遠しさで震える鼓動。
――…ぎいっ。
扉が開く。
裏木戸から忍んできた影が、中に黒く伸びる。薄闇で仄かに浮かぶ白い洋装。
「凛子…」
うっすらと亜蓮は微笑む。


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