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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの初恋-3

「あ、あのね、松田君…」
翌日…善は急げとばかりに、私はいつもの誘いを断ろうと勇気を振り絞って口を開いた。
散々悩んだ挙句、最終的に『もう誤解されたくない』という気持ちが勝ったから…
そんな私に松田君は笑顔を向けて、『なに?』と言いながら首を傾げている。

「そ、その…えぇっと……」
決心したものの、いざ言うとなると、やっぱりどうしても言いづらい。
(うわぁん…どうしよう……)
助けを求めて絢音の方をチラッと見てみても、他の方向を向いて知らん顔をしている。今回ばかりは助けて貰えそうにない。

(えぇぃ、こうなったらヤケだっ!)
意味不明な理由で自分を奮い起たせて、私はもう一度、松田君の方へと向き直った。
「あのね、私…放課後にSクラスに行くの、辞めにしたいの。」
そう言った途端、間発入れずに松田君が口を開く。
「いいよ。」
「へ?」
私にしてみればかなりの大告白だったのに、意外にもアッサリと了解してもらえて、却って変な感じがしてしまう。
だから私は、敢えてもう一度確認をしたの。
「今…なんて言ったの?」
「『いいよ』って言ったけど?」
「ほ、本当に良いの?」
「うん。」
(やった!)
松田君の返事を聞いた私は、心の中でガッツポーズをする。こんなに簡単に了承して貰えるなんて、思ってもみなかったから…
でも、『なんだ、簡単だったじゃない!』なんて思ったのも束の間…私は直ぐに、己の甘さに気付かされる事になる。

「じゃぁ、図書室にでも行く?あっ、この教室でも良いけど?」
「へ?」
一瞬、何を言われたのかよく解らなかった。
「まぁ、うちのクラスじゃなくても場所なら沢山有るしね!」
(えぇっと…それは一体……)
呆気に取られる私をよそに、松田君は淡々と話を進めている。
「前回のアンケートがかなり先生方に評判が良かったから、もう次の案が上がってるんだ。」
「そ、そうなんだ…」
(こ、断れなくなっちゃった…)
額から嫌な汗が流れるのを感じる。
松田君は私の言葉を、『場所を変えたい』と勘違いしてしまったらしい。
よくよく考えてみれば、完全に私の言葉が足りてなかった。つまりは、自業自得ってコト…
(私ってば…ホント、バカ……)
委員会の仕事と言われればそれまで…副委員長としては、手伝わざるを得ない。委員長と一緒に行動せざるを得ない。
私は松田君の一言で、誘いを断る術を失ってしまった…と言うよりも、最初から自分の言い方が悪かったんだよね……


結局、松田君に流されるがまま…私は今日もまた、放課後に松田君と一緒に居る。
せっかくの私の大告白は完全に変な方向に転がって、今や進路変更が不可能な状態に陥っている。

あれから一度もSクラスには行っていない。それに、光輝君にだって一度も会えていない。それなのに…松田君とは毎日の様に一緒に居るの。
これだと、更なる誤解をされても仕方がないよね。
我ながら要領が悪いと思う。
もっと器用に振る舞えたら良いんだけどなぁ…


そんな状態で、あっと言う間に一ヶ月が過ぎてしまったの。
日を追う毎に、私の憂鬱な気分はどんどん膨れ上がっている。
無器用な自分に苛立ち…光輝君に会えない不満が溜り…そんな自分自身にも嫌気がしている。


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