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終わりの合図と見知らぬ唄と
【青春 恋愛小説】

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『忘れ難き時間と知った歌と 後編』-2

「楽しいね?カラオケなんかよりずっと」
耳の奥に凛と響いた。 逃げて来た握手を、求められた瞬間だった。
二人の時間を共有する事、それは私の中では力のいる事。 彼の壁を乗り越える瞬間、嗚咽さえも我慢して歯を食いしばる姿を見たから。
そう思えたのは一瞬だけど、彼にはこの一瞬がとても重いのだろう。
無重力の中の過重力。 そんな物だと形容できる。 私は突然、そう感じた。

彼は苦しんでるんだと、唐突に理解した。

私はそれが悲しかった。 気がついたら言っていた。
「大丈夫?」
偽善だとはわかってる。 意味のない言葉をいわざるをえなかった。 だってそうしないと…砂の城みたいに崩れる様な気がしたから…藤原君が。
「どうして?」
彼は当然聞き返す。 どうしてだなんて、私にもわからない。 けれどなんだか気になった。
「ううん。なんでもない」
これはホントに感じた言葉。
「ありがと」
湖にトプンッと石が落ちた様な声。 消え入りそうなその声に、確かに私と同じ物を見た。

あぁ彼も無色の夢を見て来たんだ…

眠りを彷徨う浮遊感も、しっかりとした覚醒と変わる瞬間に、私はいつも彼を見た。 やっぱりあれは気のせいではなかったんだ。
美しく萌えるその森に、消えて行く嘆きの唄。 彼の力になりたいと思った。

興奮が冷めない、夜だった。





今私は公園のベンチに座ってる。 カラオケで二人と別れて数十分、家路の途中の近くの公園だ。
置き去りにされたカラオケの余韻も、今はただの静けさと消えた。
私は藤原君に声をかけた。 聞いておきたい事がある。
「ねぇ…? 藤原君は… 一人?」
兄弟が?とか、家族が?とか、そんなんじゃない。
私は昔は一人だった。
「……なんで?」
伝えられたのかな? 質問には答えない。
「藤原君は…なんで一人なの?」
「…」
時々見えた悲しい眼。 あれは無音の痛みを知ってる眼だ。
日々すぎて行く日常をこなし、人との会話とか、部活働に熱心になるとか、そんな人間らしい事を一つもできず、明日がこなけりゃいいだなんて、半分あきらめかけながら今日を漠然と生き続ける。
そんな悲しい事を知ってる眼だ。 私にはわかる。 私もかつてそうだったから。

でも私は変われたよ? だからあなたも変わってほしいの。
「もし…辛いなら… わかるから。…言って?多分私もそうだったから」
喉に詰まって言いたい事が良く言えない。 熱くなった目頭をグッとこらえながらなんとか続ける。
「私…私ね…? 藤原君に会うまで、本当に生きてるのが嫌だったの。 でも臆病だから…私。自分で自分を消すなんて事、絶対に出来なかった。…でも気付いたら周りに存在を消されてた。 イジメとかそんな部類じゃないと思う。私はただ、いなかったの」
泣かないって決めたのに、私の瞳を熱を持つ。
「苦しかった。 学校に行っても誰も私をみないんだもの。 生きてる意味さえわからなくなった」
「…う……ん」
藤原君がなにかを言おうとしたけれど、私はかまわず吐き続けた。 黒く固った醜い泥を。多分藤原君も持っている。それは私なんかよりずっと重くて辛い様な気がする。
「けど… 私を見つめる瞳が出来たの。忘れる事の出来ない歌を聞いたの。 見つめられた部分が色を持ったみたいで、本当に本当に嬉しかった。 私も生きていいんだって」
「…」
沈黙する悲しい瞳の持ち主。 かまわない。続けるしか私には出来ない。
「だから… だから聞いて? 私は今生きています。 それは藤原君のおかげです。 藤原君がいなかったら今ごろまだ色のない、音のない世界を一人でいたと思うの。黒にまみれた世界から救ってくれたのは藤原君なの。今度は私が救ってあげたい。 私はその世界を知ってる人間だから。」
いつのまにか泣いていた。 涙が後から後から流れでた。
「だからお願い。 話を聞かせて? 藤原君は…一人なの?」


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