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終わりの合図と見知らぬ唄と
【青春 恋愛小説】

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『忘れ難き時間と知った歌と 後編』-7

公園につくと小さい人影がベンチの隅に座ってるのが見えた。 鼓動が早くなるのがわかる。
短いけれど確実に私は黒の世界へと足を踏み入れていった。
回り回って巡る世界。
昔感じた世界とはなにか少し違う気がした。
雨に濡れたベンチに座る。 服が濡れたってかまわない。 立ち続けるのは難しいだろうから。
藤原君がこっちを向く、かわらないビー玉みたいな黒い瞳。 吸い込まれそうになる幻覚と戦いながら私は言った。 先に言わなきゃならない事があるから。
「さっきは…ごめんなさい。 私、少し感情的になりすぎちゃった」
想う気持ちが本当であればあるほど、人は冷静さを失うみたいだ。 私は今日、それを知った。
「こっちこそ。 僕も気持ちが高ぶっちゃったみたい。 ごめん」
静まりかえる、子供の園。 昼間見るのとは違い、なにか少し澄んでいた。
私は次の言葉を待つ。 一生に思える時間だった。
「…わかったんだ… 僕の事が。」
突如として破られる静寂。私は耳を傾ける。
「自分自身が一番望む事を、僕は見落としてたみたいだった。…昔、ただ単純に夢から逃げたいと思ってた頃の、小さな願いを。 君はそれを思い出させてくれた。 僕にも唄える歌があるんだって。」
歌える時間を忘れた子供。
「聞いてもらえる人もいるって事。 とても大事な事なのに忘れてた。 大人への道を昇るたびに忘れていった。 僕は自分で自分を陥れたんだ。 あの暗い世界に」
ほの暗い道を歩く少女。 私は彼女に向かってただ叫ぶ。 苦しんでるのはあなただけじゃないよって。
「君は僕を光と言った。 僕は光れていたんだ。 そう思ったら夢の続きが恋しくなった。 僕に語りかける両親に言いたかった。 僕は変われるみたいだって。」
明日がどうなんて誰も知らない。 ただ夢の続きがみたいだけなんだ。
「涙が止まらなかった。 君が最後に言った言葉が胸に残った。 好きだって、その一言が嬉しかった。 生きてもいいよって言われたみたいだった。」
心から言いたい。
好きだよ。
「本当に嬉しかった。 初めてだったから。 普通なら言われて育つんだろうけど、僕は知らなかったから。」
愛に餓えた青年。 そんな陳腐な表現が一番似合う人間。
「ありがとう。 僕は…」
いっきに目頭が沸点に達する。 わかるんだ… この先の言葉が。
「…僕は変わっていいみたいだ。

僕も…君が好きだ。」





今日だけで一生分の涙を流したろう、けどやはりその後も止まってくれなかった。
夢の中でも聞かなかった待ち望んだ言葉。
私は彼を救えたんだ。
ゆっくり私は息を吸う。
私は今生きている。 灰色の世界で二人、生きていく。
「僕はやっぱり過去を消せないみたい。だから昨日を歌う事にした。明日の事なんて誰にもわからないんだから」
私はただ頷くしか出来なかった。 何度も何度も深く頷いた。
「僕はこれから君の為に世界を歩く。 君が僕を見てくれてる事を胸に、黒い世界が色付くまで。」
そういって抱き締めてくれた。 暖かい心臓の音がした。

私達の世界は色と音で溢れていた。

「多分きっと、僕は弱い人間だから。 また世界を裏切るかもしれない。そんな時は側にいて欲しい。 愛しい君がそこにいるだけで、僕の世界は幸せであふれるから」
空いっぱいの碧が広がって行く。
さっきまで今日だった昨日がとても美しく見えた。

「私はあなたをずっと見てる。 あなたの事が好きだから」





傍らではタンポポの花が可憐に咲いていた。 一日しかたってないのに長い事私達は迷ってたみたい。
黒い世界をゆっくりと、光目指して迷ってた。
まだまだ世界に色はないけど。
まだまだ世界に音はないけど。

私達にとっては忘れられぬ記念日となった。
どこからからあの歌が聞こえてくる。


君が本当に笑って泣ける様な二人になる。


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