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終わりの合図と見知らぬ唄と
【青春 恋愛小説】

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『忘れ難き時間と知った歌と 後編』-1

ほの暗い道をひたあるく、暗く長いいつもの帰り道を。
でも今回は一人じゃない。
辛かっただけの景色に色があり、音がある。 ただただ一人を痛感するだけだった無色無音の世界がしかし今日だけは変わって見えるんだ。
それはとても幸せな事で、夢見てた物語の舞台に立った様。 明日がどうだなんて考えられない。 夢の続きがもっと見たいから…




初体験で始まり初体験で終わった親睦会も終わりを告げ、今は家路についてる最中で、私はすごく緊張している。
今日あった全ての事を忘れそうな高揚感と、眠りの中にいる様な不思議な浮遊感の中で私は今、家路についている。
なんでかはわからないけど、暗闇と沈黙だけが権力を握るこの空間がたまらなく私は好きだった。
それは一人の男性がいるだけで、変わってしまった世界だった。
昨日の事の様に思い出される過去の日々を通学路に重ね、もうあの頃には戻りたくないと本気で思う。
沈黙の中にある優しさを…手放したくない…手放せない。 夢で終わるならまだしも、幸せを知ってしまった私にはそれが終わる苦痛を知っている。 なおさら世界は色を持った。

聞き慣れた名前の知らない歌が聞こえてくる。
『魔法のアルバム』の部分が妙に美しく思えて人しれず私は笑った。 静かに笑う私と、静かに歌う彼の先には明日という日常が待っていて、それでも明日が来てもいいと思えるのは、この鼻歌まじりの帰り道が意味のある物だと思うから。

好きだよ。うん。

とても言いたい。

ありがとう。うん。

心から言いたい。

言いたい言葉がありすぎて、静寂の中に消えて行く。 こんな時はあの唄を、勇気の唄を思い出す。
気付いたら、一緒に唄ってた。 名前も知らない歌なのに。
それでもやっぱり優しい歌で、彼の眼には光があって、それをなぜか不思議だと思うのです。




「あれ?知ってるの?この歌?」
不思議そうに尋ねる彼。 真っ直ぐ見つめる黒い瞳、私はいつも吸い込まれる。
「何度も聞いてたら覚えちゃった。 一緒に唄ってもいい?」
歌詞のとうりに尋ねる私。 ホントにこの歌みたいな二人になれればいいのに。
「もちろん。」
その悲しい唄は私に投げ掛けられてる様で少し胸が締め付けられた。 なにより歌ってる人の悲しそうな眼が私の中の夢になる。 そんな気がした。

あぁ私はこの人を求めてるんだ…

それはかなり心の奥で、絶えず私に語りかけてる。 二人の歌声が夜のとばりに木霊する。 気持ちの良い夜の二人の遊び。 子供の頃、無邪気だった時代を思い出してなぜか不思議に胸が晴れた。
いたいけな少女がそこにいる。 夕暮れの中叫んでる。 私はここにいるよって、大きな声で叫んでる。
大丈夫だよって私は言ってあげた。 私はここにいるんだからって。
それはとても大切な事。 不思議な歌声の持ち主が思い出させてくれたんだ。
君の居場所はここだよ?って言ってあげたかったけど、もう気付いた頃にはいなかった。


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