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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ10-3

翌日。

「うそ!あの灰慈くんが貢がさせられてたの!?」
『ああ』
「怖い女だよ、アイツは」
『そのくせ最後には灰慈をふりやがった』
「うそ…」
灰慈を除いた五人は食堂で話していた。
そう、灰慈と高田は高校時代に交際していた。
高田は美人だが、性格に問題があり、何かと灰慈を利用していた。
やがてそれはエスカレートし、何でも灰慈に金を払わせるようになったのだ。
そして灰慈が別れを切り出そうとすると、高田は逆ギレして灰慈をふったのだ。
「ひどい…」
悦乃は肩を落とす。
「でも、灰慈くんは何でその人に会ってるのかな?」
「自暴自棄だって言ってたわね」
由貴は箸を置くと、座り直して言った。
「………」
『灰慈は楽になりたいって言ってたな』
一同は沈黙する。

やがて解散した後、由貴は一人で呟いていた。
「………なによ、あいつ」





さらに数週間が過ぎても、灰慈は姿を見せなかった。
灰慈は完全に俺たちのグループから外れているとみんな感じていたし、高田と元サヤに戻ったのだと思っていた。
「灰慈くん、なにやってるんだろう」
悦乃はテキストを広げながら言った。講義がまもなく始まるのだ。
「それはもちろん、イチャイチャしてるんだよ」
葵もケータイをいじりながら言った。
「青空くんとメール?」
「うん♪」
「いいなぁ」
「えっちゃんも瞬くんとメールすれば?」
「んー…」
「あれ?由貴ちんどうしたの?」
由貴はいつの間にか席を立っていた。
「講義もう始まるよ?」
「………ごめん、あたしちょっと行ってくる」
「え?」
由貴はテキストやペンケースを片付けると教室を走って出ていった。
「……」
「……」
そして、講義の開始を告げるチャイムが鳴り始めた。



『あ?』
「いいから!灰慈くんの住所!メールで送って!」
『お前なにやってんの?』
「ごめん、走ってるから早く!」
『……わかった、今から送る』
「うん!」
由貴は瞬との電話を切ると同時にタクシー乗り場に到着した。
「はぁ…はぁ…なんであたし…走ったんだろう……灰慈くんは逃げないのに」
そんなことを考えていると、瞬からのメールが受信された。
「……すいません、ここまで」
由貴はタクシーに乗り込み、運転手にケータイを見せた。
運転手は急いでいるのを察したのか、車を急発進させた。
「待ってなさいよ…バカ」


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