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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ10-2

灰慈の家は、大学からふた駅先にあるワンルームマンション。もちろん一人暮らしである。

瞬は缶酎ハイの入ったビニール袋を腕に下げ、もう片方の手でドアノブを回した。
「……誰だろ?」
『……』
玄関には綺麗に揃えられたブーツが置いてあった。
すると、ドタドタと玄関に向かって足音が響く。
『………は?』
「………え?」
「あら、常葉くん、樋くん、久し振り」
『……どういうことだ』
「なんで……高田がいるの?」
「そんな怖い顔しないでよ」
高田と呼ばれた女は、がっかりしたような表情を見せた。
「さあ、上がって」
『……あ?ここはお前の家じゃねーだろ』
瞬は彼女が気に入らないのか、鋭い睨みをきかせた。
「……」
青空も複雑な顔をしている。
「まぁまぁ、そうカッカしないで。寒かったでしょう?上がりなよ」
『………』
「………」
瞬も青空も無言で上がり、リビングのドアを開いた。
「おー、おふたりさん」
灰慈はタバコをくわえたままソファーに座り、ファッション雑誌を眺めていた。
「灰慈、あたしコンビニに行ってくるから」
そう声が玄関から聞こえ、すぐにパタンとドアが閉まる音がした。
『………灰慈、どういうことだ』
「なんで高田がいるのさ?」
「なんや二人とも、なんでそんな怒ってんねん」
『アイツは話が別だろ』
「うん」
二人が凄むと、灰慈はタバコを灰皿に押し付けた。
「………ええやん」
『………あ?』
「俺はもうええんや。今は楽になりたいねん」
灰慈は冷たく言い放つ。
「灰慈………」
「あいつと元サヤに戻ったわけやないねん。この間、偶然会ってな」
『……』
灰慈は淡々と続ける。
「そんで話いろいろ聞いてもらったんや。俺はそれだけでだいぶ楽になれた」
『だからって…高田はねぇだろうが』
「瞬、お前には関係ないで」
『てめぇ……もう勝手にしろよ!』
「……最初から俺は勝手や」

ガァン!!

瞬はビニール袋を叩きつけると、玄関口でも派手な音を立て出ていった。

「灰慈……俺も高田はよく思わないよ。それは、お前が一番わかってるはずだよ……」
「………」
青空はビニール袋を拾うと、静かに出ていった。



『あーあ、また感情的になっちまった』
「クールが売りの瞬くんなのにね」
『………うっせ』
駅までの帰り道を二人は肩を並べて歩いていた。
「それにしても、なにを血迷ったかね、灰慈は」
『ああ、アイツ、忘れてねぇのかな、昔の事』
「……どーだろ」


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