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『しま模様と紙ひこーき』
【青春 恋愛小説】

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『しま模様と紙ひこーき』-6

「……」
けど、そんなことは言えない。こんな考えは一度も転校したことがない人が言う、表面しか見ていない言葉だ。…私が言う言葉はまだ他にあると思う。
「さっきの…先輩が言おうとした言葉…『がんばって』ですか?」
「あ、うん」
ふふ、とせせら笑いが聞こえた気がしたのに、私は耳を澄ます。
「みんな、そう言ってました」 みんなというのは、前のだろうか。それとめ今のか。でもどちらにしても、
「いいことじゃない」と、その場面を彼女の後頭部を見つめ、浮かべた。
「確かに少なくとも悪いことではないと思います…けど、内心はそんなこと思ってもいないんです」
「そんなことは…」
多分ある。たとえそこの、この子が前いた学校がすごく分け隔てなく平和な所だとしても、みんながみんな一人の子のこれからを思い、別れを悲しみ応援してくれるなんて事はないと思う。だけど、そんなのは当たり前だと転校したことがない私にもわかる。
「わかってます。そんな夢みたいなこと、ないって…。なんせ数回も転校したことがある身ですから」
誇らしげに、言う。
「…そもそも、三つも前の学校なんていたのがたったの一週間ですよ?そんなとこでなにを築き上げたらいいんですか?そのせいか、そこでは朝の会でただ、お世話になりましたって言っただけです。その時は本当に教室の中は気まずさがいっぱいでしたよ。仲良くもないのに、がんばってって言う子がいました、名前もろくに覚えてもないのに、連絡しろよなって言う馬鹿な子もいました…そう思うとまだ、一つ前の学校の子たちは利口でした。私を魔女のような目で見て、口も聞いてくれませんでしたから」
そこまでまくし立て、言った彼女は、なんでしょうね、そこのクラスは魔女裁判週間ってのものがあったんでしょうか。とまた、クスッと笑う。
その、黒く濁った声に私はそれこそ魔女のようだな−、
とは思わなかった。
ただでさえ異様な特別視される転校生なのに、そんな私がみんなの縄張りに入っていったところで解るのは…一つだけです…苦痛でした。
と、聞こえないぐらいに小さな声で微笑んだ−のだと、嫌な思い出を必死にかみ砕くように力が篭っていた、触れ合う温もりが教えてくれたから。
「別に、私は馴れ合いを望んでいるわけではないんです…すくなくとも今は。ただ、そんな中身もなにも詰まっていないプレゼントを貰っても、嬉しいのはその時だけで、家に帰っても連絡さえなくて」
私は家で、はにかみながらプレゼントを開けた彼女を想像した。そわそわと電話の前で友達からの連絡を待つ彼女を想った。そうすると、彼女の心がひしひしと伝わる錯覚をした。が、そんなことはどうでもいい。
「でも、」
私はそっと強張った彼女の肩に手を乗せる。もう片方の手で優しく頭を撫でてあげる。彼女の肩が、ぴくん、と動いて次第に力が抜けていくのを感じた。
狭い掃除箱の中。私の前に俯き立つ少女の肩は一歳しか違わないというのに、私よりも小さくて、華奢で、力を加えると折れてしまいそうなのに、彼女は許容以上のもの想みを知らず知らず抱え込んで歩いてきたんだろう。そう思うと泣きそうになったが、私の涙でも今は安っぽいから。
「この学校はどう?」
そう聞いてあげた。
「……っ!」
彼女は馴れ合いしたくないと吐き捨て、慣れたとも言った。
だったら何故、さっきこの子は泣いたのか。
答えは簡単だった。もうこりごりなんだろう。何回も転校して、その度一人だけの空間に投げ込まれて。怖くないはずがなかった。
引越しが悪いってことじゃない。この子の両親が悪いってわけでもない。仕方がないわけでもないんだ。ただ、この子はまだ子供だから、今の状況とどう向き合っていいかわからなかっただけだ。そして彼女が向き合うべき相手も子供で。
けど、確かに詳しく聞いていないからよくはわからないんだけど、悲しい事もされたんだと思う。だから、そんな経験をしたことがない私は、ここでも言えることは何もない。
「…変な…人達ばっかです…」 そんなこの子にとって今回の学校は理想的だった。だから今もこうして別れたくないから小さな想いを零している。私がもしここに来ていなかったら、この子は一人ひっそりと泣き明日を向かえていたんだろうか?わからない。


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