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『しま模様と紙ひこーき』
【青春 恋愛小説】

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『しま模様と紙ひこーき』-7

「……」
やっぱりわからないことばかり。
だって私はまだ中学生のブラジャーもつけれない、子供だから。
だけどこれだけは言える。昔がどうであれ今が大事ってこと。と、もう一つ。
私がなんでここに来た理由。
それで先客がいて、先にやっていたのなら断りを入れるのは、十五年間ぽっちしか生きてない私にもわかる。それと誘い方も。
彼女をこちらに振り向かせ、向き合って、目と目を合わせて、笑顔で、
「紙ひこーき飛ばそっ」って。


「これは私のオリジナルです」 「へー凄いね。こんな形の初めてみた」
「苦労しましたから」
そう春香は自慢気に言うと、そのオリジナルを持ち、照れるように微笑む。
「なに賭ける?」
悪戯ににやける私に春香は、「じゃあ…先輩の名前で…」と、これまた恋する乙女みたく顔を赤くして、定位置についた。
「(…おいおい、まさか…ね)」
私は微かな不安を振り払いながら春香にならい、さっき折ったMyヒコーキ『カミカゼ』の最終点検をする。
「なんか、戦闘機みたいな名前ですね」
「カッコイイじゃん…あ」
そこで、肝心な事を思い出した。鞄から筆箱を取り出し、ペンでカミカゼにある言葉を書く。春香がそれを不思議そうに見つめていたが、もちろん彼女には見せない。
書き終わった私は、なに書いたんです?と、しつこく聞く春香を手で払い準備に取り掛かる。
ちなみに春香というのはもちろん彼女の名前だ。何故わかったかというと、それはこのノートに堂々と書かれていたからだ。
あの後、掃除道具箱から出た私たちは、私の誘いを受けた春香と競争することになった。泣き止んだ彼女は、やっぱりヒコーキを飛ばすのが好きなんだろう。私の実力を魅せてあげます!とウズウズしているのがまるわかりだった。
「…先輩」
窓から腕を出し、人差し指を立てて風の向きを調べていると春香が聞いた。
「なに、いま風を読んでるんだから手短にね」
「ありがとうございます」
感謝の言葉を口にする彼女の口調はとても穏やかで、私はホッとした。が、正直面と向かって言われると物凄く照れくさい。
「きっと私は誰かに聞いてほしかったんです。だから、紙ヒコーキをここから飛ばして、誰か気付いてくれないか待っていたんです」
「で、私が釣れた?」
「そういう事になりますね。けど、狙ってましたから」
「……………………」
つまり昔からってコトデスカ? 「いちばんバカそうな人をです」
「………」
正直嬉しいのか、ムカつくのか複雑な気分だった。
「そうして釣れた人は大物でした」
この子はどうしてこっ恥ずかしい事をこうも言えるのだろう、と思ったけど、これなら次の学校に行っても大丈夫だろう。この子は人より少し人見知りをする子なだけ。きっと相手から気安く接してくれれば上手くいく。
そう思った私は見知らぬ次の転校先の子に、よろしくね。なんて心の中でお願いしてみる。後は春香次第だ。
「はいはい。それはもういいから飛ばすよ!」
元気よく言う。その元気が移ったのか、春香も定位置の窓から身を乗り出して負けませんから、と楽しそうに笑う。
私も負けずに笑顔で開始の合図をし、二人一緒に紙ヒコーキをめいいっぱい空に向けて飛ばした。
明日も晴れるだろう雲ひとつない西の空に。世界中の誰もが唯一優しく、悲しく、想い焦がれたことがある茜色の景色に。今日がまた終わるんだと、不安と期待を感じさせる空に。きっと笑顔になる明日に。
それは飛んだ。


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