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『しま模様と紙ひこーき』
【青春 恋愛小説】

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『しま模様と紙ひこーき』-5

「明日転校するんです」 「ごめ…え?」
「父の転勤が決まったんです。だから転勤しなくちゃいけないんです」
淡々とした口調。動揺など微かも見せない彼女の言葉には、何回も練習したように発音がよかった。
私は、またしても言葉を失った。掛ける言葉がないわけではない。ただ、今日知り合ったばかりの子に「そうなんだ、向こうに行ってもがんばってね」「手紙ちょうだいね。連絡してよ」「忘れないよ」−なんて。上辺だけのなにも篭ってない言葉なんて恥ずかしくて言えやしなかった。けど、実際はたったこれだけの時間だけど私には楽しかったし、この子を嫌いになる理由なんてなく、むしろ後輩の知り合いが少ない私には魅力的なパシ…子で友達になりたいとも思う。ならば、「がんばって」の一つや二つプレゼントしてもいいんじゃないのかな、と思う。
私は、そうなんだー、と口を開き、
「やめてください。結構です、そんな台詞」
彼女は拒絶された。
私は今まさに出ようとする言葉を舌に巻きつけむりやり唾と飲み込む。
「…なんで?いいじゃん。言わせてよ。これぐらいしか言えないし」
「…言えないなら、いらないです…」
消え入りそうに零す。声と一緒に何かを。…ナニを?知らない。掃除箱の外はかなり明るいのに、ここは真っ暗で、位置的にも彼女の表情は伺えなかったからだ。心さえも。
そのまま数秒の沈黙が続き、私はひどく居心地を悪く感じた。と同時にあることに気付く。
…ナニコレ?なにこの昼ドラじゃないけど、変なドロドロと甘酸っぱさがシェイクされた青の春みたいな感じは!…というか、女同士!?
私はこのままここに居続けたら、精神的にもモラル的にもヤバイと第六センスで感じ、手を伸ばし数十センチ前の道具箱のドアを開けようとした。
すると何かが、くん、と延ばした腕の裾を遠慮がちに引っ張った。細く綺麗な指。儚いソレは私を掴んで離さなかった。
「このままがいいです…」
男には、据え膳喰わねばなんとやら、と言う言葉があるらしい。その状況が今なのか?貞操の危機なのか!?わたし女なのに!
「アホですかあなたは…」
「え?」
「丸聞こえです。というか、いつもそんなことばかり考えて…」
「いません!」
どうやら、心の声を口に出していたらしい。つまりそれ程、いっぱいいっぱいということだ。
「…ふふ」
でもそのお陰で、また彼女が笑ってくれたなら安いものだろう。
女の子は、くすくすと手を軽く口に当て、上品に笑いを堪えていた。その仕草がとても愛おしく感じられこっちまで頬が緩んでしまう。あはは、もう私いけないほうにいっちゃってるよー。多分私が男だったら襲ってるんじゃないかな。
「…私、転校っ子なんです」
さっきの話しの続きだろうか。彼女は笑うのをやめて、少し間を開ける。けど、さっきとは違う空気だ。温かいような感じだった。だから私はちゃんと聞くことにした。たぶんこの子は聞いて欲しいから、けど面と向かうのは恥ずかしいからここで話そうとしているんだと思う。あれかな、お母さんのおなかの中に居たときみたいに、暗く狭いところだと落ち着くっていう。それに今は、触れ合う温もりがあるから安心できる。
「今までも何回もいろんな学校に転校しました。この学校で十回ぐらいだと思います…。だから正直今回の転校もしょうがないって思うんです」
そうだろうか?確かに何回も同じことを繰り返せば慣れるモノだとは思うけど、慣れないモノだってあると思う。


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