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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-87

 そんな風祭だが、“草球会”への援助は惜しんでいない。むしろ、そのスポンサーに近い形で彼は鈴木を援けている。毎月の経費の中には“草球会費”と銘打って、営業に支障がない範囲で経済的にバックアップしていた。
「多分、大和なら歓迎されるよ」
 なにしろ、いきなり14本もホームランを打つほど“できる”選手だ。
「ありがとうございます。でも、双葉大学にも野球部はありますから……」
「え? そうなん?」
 風祭が、またしても首をかしげた。
「軟式ですけど……“隼リーグ”の2部にいるチームです」
「ああ、あの“隼リーグ”か」
 軟式野球会の“最高峰リーグ”だ。もちろん、風祭も知っている。
「そうか。なら、この話はなかったことにしとこう」
「すいません」
「いやいや」
 その後も、会話は続いたが、風祭は終始ご機嫌だった。肘を痛めて以来、このバッティングセンターとも疎遠になってしまっていた大和を、久しぶりに見たという嬉しさもあったのだろう。
 結花と話していた“30分ぐらいなら”という時間は既に過ぎ、その賜物とばかりに結花はバッティングを続け、大和と風祭の指導を受けるという恩恵に預かることが出来た。
(うふふ、ラッキー♪)
 結花にとっても、至福の時間となったわけだ。もっとも、風祭と大和が自分そっちのけで話にのめりこんでいた代償と考えれば、当然の事だとも彼女は思っていたが。
 そうして結局、夕方になるまで大和はバッティングセンターで時を過ごしていた。
「プレート、かけとくから」
 本塁打月間ランキングの3位の位置に、風祭が用意した大和の名を刻んだプレートがかけられる。何となく視線で上位のプレートを追っていた大和は、1位と2位の名前に目がとまった。
『2位:六文銭孝彦 23本』
『1位:安原 誠治 25本』
 下位を圧倒する数字だったということはある。だが、何処かで聞いたような名前だったからだ。
(あっ……)
 そしてすぐに思い出した。入れ替え戦を桜子と見に行った時、目の前で倒れそうになった男性を助けたことがあったが、その人物の名が“安原誠治”だった。そして、彼を追いかけるようにして姿を現した“六文銭孝彦”。確か、二人とも仁仙大学の学生だと言っていた。
「え?」
 大和は疑念を抱いた。“六文銭孝彦”と名乗った人は、確かに体格の良い力のありそうな雰囲気を持っていたから、この本塁打の数も頷ける。
 しかし、“安原誠治”は、胸に持病を抱えているようで、いかにも華奢で弱々しい感じだった覚えがある。それが、1位に名を連ねているとは…。
「そういえば、この二人。“隼リーグ”でも有名だぜ」
「そうなんですか?」
「仁仙大学は、1部にいるチームだからな。それに、強い大学だ。特に、1位の安原君なんて、“至宝”って呼ばれてるくらいでよ。まあ、礼儀正しいし、野球は上手いし、立居振舞は立派だし……俺なんかとは大違いだな」
 がはは、と太鼓腹を鳴らす風祭。その滑稽な様に、結花が思わず吹いていた。
「双葉大学は、2部って言ってたな。でもまあ、大和が入るんだ。すぐに1部にあがって、こいつらとも対戦できる時が来るさ」
「そう、ですね……」
 思いがけない接点に、大和は驚くばかりだ。世間は本当に、狭いのかもしれない。
「それじゃあ風祭さん」
「ありがとうございました」
「おう! またのご来店、お待ちしてまーす!」
 おどける風祭に、大和も少し頬が緩んだ。強引に誘われたものではあったが、いい時間を過ごせたと、大和は心から満足した。
 ……実は彼は、ひとつ見落としていた。
 月間本塁打ランキングのプレートに、
『15位:水野 葵 7本』
 と、あったことを。
 もしもこれを見つけていたら、さしもの大和も平常ではいられなかっただろう。
 だが、何の因果か…。
 二人のすれ違いは、今はここでも続いていたのだった。


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