投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 366 『STRIKE!!』 368 『STRIKE!!』の最後へ

『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-88

「センパイは、双葉大学にいくんですか?」
 11月だから、陽が落ちるのは早い。また、このところの夜の治安は、さすがの城央市も心情的に安心できるものではなくなっている。
 反対方向にはなるが、結花を家まで送るため大和は、バッティングセンターを出た後も彼女と行動を共にしていた。
「うん」
「センパイ、歴史大好きですもんね」
 屋上でよく、歴史小説を片手に過ごしている大和を見てきた結花だ。そのあたりは、よく知っている。
「野球部もあるなんて、知りませんでした」
「最近できたばかりらしいんだ」
「そうなんですか?」
「あ、そうだ」
 彼女は軟式野球の世界にいる身だ。ひょっとしたら、知っているかもしれない。
「結花ちゃん、“屋久杉雄太”って人、知ってる?」
「?」
 大和から話を振られるとは思わず、怪訝な表情を向けてくる結花。
「あっ、その人、知ってます!」
 しかしややあって、すぐに彼女は問いに答えてくれた。
「センパイたちの話に出てました。一昨年の予選大会で、ノーヒットノーランを食らったとかなんとか……美作先生も、確か同じこと言ってたから」
「そ、そう」
 ノーヒットノーランとは、これまた豪快に捻られたものだ。予選で対戦したということは、屋久杉雄太の母校は近くなのかもしれない。これも意外な接点のひとつだろう。
「お知り合いですか?」
「その人が、野球部を作ったんだ」
「そうなんですかぁ。じゃあ、センパイ、また野球をやるんですね」
「あ、ああ」
「うふふ。よかったぁ」
 なんだか結花は嬉しそうだ。思いのほか、大和と会話が弾んでいる今の状況が、楽しくて仕方ないのだろう。
「やっぱりセンパイは、野球をしてるときのほうがカッコいいです」
 光が散りそうな笑顔を向けてくる。“後輩”という大和のフィルターが覆い隠した彼女の可愛らしさは、久世高校の中でも人気の高さを誇っているだけに、大和が見ている彼女の表情は、逆にいえば大和にしか知りえない彼女の魅力だ。
(なんか、いい雰囲気かも……これなら……)
 結花が期待を持つのも当然だろう。こうやって並びあって、会話を弾ませている二人を傍から見れば、“彼氏・彼女”と見られても不思議はない。
「あ、あの……センパイ」
 結花の家が、見えてきた。すぐに玄関先にたどり着き、二人の道はここで分かれる。思い余って結花は、秘め続けてきたものを大和にぶつけようとした。
 その瞬間である。
「結花ちゃん」
「あ、はい!」
 大和のほうから声をかけられた。気持ちを盛り上げてきた彼女は、更に期待を高めて大和の言葉を待つ。
「今日のバッティングの様子なら、多分、すぐに調子は戻るよ。もう、大丈夫だね」
「………」
 だから、野球の話題をついに離れなかった大和の心に、まだ自分が特別なものになっていないということに気づいた。
「結花ちゃん?」
 彼女は、明らかな落胆を顔に出していた。さすがに大和も、その様子はわかる。
(あっ)
 それが良くないことだと思った結花はすぐに、いつもの明るい笑みを作った。
「今日は、ありがとうございました! それじゃあ、センパイ、バイバイ!」
「あ、ああ……それじゃあね」
 手をひらひらと振り、さらに明るさを振りまいて結花は家に入る。扉を開け、もう一度彼女はその脇から顔を出して大和に手を振ってから、ようやく中の人になった。
 もしも大和が、家の中に入るなり泣きそうな顔になった結花を見ていれば、その気持ちに揺れも生じただろう。結花はもう一押し足りなかったというべきであり、そしてこの時は彼女にとっての千載一遇の好機でもあったのだ。


『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 366 『STRIKE!!』 368 『STRIKE!!』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前