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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-86

「風祭さん」
「よう。久しぶりかな。最近、見なかった気がするよ」
 “豪快一打”の店長・風祭である。5年ぐらい前からこの“豪快一打”を預かるようになった彼は、“アクティブモード”の導入に代表されるように、開店休業状態だったバッティングセンターをまずは施設の面で改革し、落ち込んでいた売上を回復させた男である。また、野球少年たちへの面倒見も良く、お願いされれば喜んで指導したりもした。そして大和も、中学の頃からこの風祭にはよく世話になっていた。
 ちなみに、足をあげない摺り足打法は彼に教わったものでもある。それによって大和の長打力が飛躍的に伸びたのだから、大和の体格にあうバッティングフォームを見出した風祭の識見は、かなり高いものと言えるだろう。
「ほいよ、これ、ホームラン賞」
「あ、ありがとうございます」
 風祭は、4枚のカードと2枚の券を大和の前に差し出す。ホームラン1本につき、1回分のメダル交換券がもらえるのだが、14本の本塁打を放った大和はメダル3枚分に相当するカードを4枚、メダル券を2枚受け取ることができた。
「いきなりこれじゃ、商売上がったりだ」
 と、いいながら、風祭は喜色満面だ。
 風祭は、“副賞”と言ってスポーツドリンクの缶を大和に渡す。もちろん、結花の分もだ。思いがけない福音に預かって、結花は相好を崩していた。
「肘の具合、もういいみたいじゃないか。前のスイングに戻っていたぜ」
「そう、ですね。良くなったのは、ほんとに最近の話なんですけれど」
「惜しかったなぁ。夏の前なら、野手でも試合に出られたろうに」
 風祭は、そのあたりの事情にも詳しい。その言葉に対し、大和は曖昧な笑みを浮かべるだけだった。
「進路は決めたのかい? ……まぁ、久世は普通校だからな。進学なんだろうけど」
 当然、彼が受験生であることも知っている。そして、それを簡単に聞けるほど二人は気の置けない関係でもあるということだ。
「双葉大学です」
「双葉? ああ、あの歴史の有名なところか」
 ふと、風祭の表情に寂しさが少し滲んだ。
「野球は、もうやめちまうのか?」
 双葉大学には、硬式野球部はない。
「野球は……続けるつもりです」
「お、そうなんか? でも、野球部、ないんだろ?」
 風祭は首をかしげた。そして、不意に何かを思いついたように言った。
「俺の知り合いに、鈴木って男がいるんだが、そいつがここいらの草野球チームを集めて作った“草球会”ってヤツの代表をしてるんだ。チームも持ってるし、よかったらそのチームに参加してみるか?」
「………」
 大和はその“草球会”を知っているし、鈴木とも面識がある。しかし、まさかこの風祭と懇意にしていたとは知らなかった。世間はなかなか狭いものだ。
「鈴木のチームはなかなか強いし、本格的に野球をやってるからよ。なんなら、鈴木に紹介してやるけど?」
「風祭さんも、そのチームにいるんですか?」
 ひと月前の大会では顔を見なかったが…。
「あ、いや。俺は、参加していないよ」
「?」
 珍しく歯切れの悪い風祭に、今度は大和が首をかしげた。
「昔は、チームも持ってたんだけどな」
 今は草野球の試合にも出ず、チームも持っていない風祭だが、実は以前“バッカス”というチームのリーダーをしていたことがある。しかし彼とそのチームは、シャークスの松永のように賭け野球に興じていた時期があり、さらに、その試合で負けが込んでしまい、チームメイトたちの不興と離反も重なって、解散の憂き目に遭ってしまった。
 “野球を汚した過去”と今ではそれを悔いている風祭は、その自戒を込めて、二度と野球の試合に出ることをせず、チームにも参加しないと誓っている。
 実際の話、鈴木に何度かチームに参加しないかと誘われたこともあったが、彼は頑なにそれを拒み続けてきた。他のチームに対しても、同様である。あの龍介も、実は一度、彼に声をかけたことがあるのだが、やはり風祭はそれも丁重に断っていた。


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