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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-257

「指先や手のひらを中心に見れば、そうなる。でも、考えてみるんだ。投げるときの腕の動きを」
 亮の問いは続く。大和は腕を振るモーションを何度か繰り返し、その問いに対する答えを探した。
「あっ……」
 リリースの寸前で意識をしながら動きを止めると、小指が先に前を向いていた。
「投げる、という運動を行うとき、肘を起点にして、それに引っ張られる形で腕は回転しながら振られる。そうなると、肘から軸を引いてみるときに、中指と小指と比べてみれば、どっちが真っ直ぐに伸びるだろうか?」
「小指、ですね……」
 見た目にもそれは、はっきりしていた。
 肘が先に出ているから、中指から一本の軸を引こうとすれば、それは湾曲した状態になる。しかし、小指に意識を置いてみれば、その軸ははっきりとした直線を描いている。
「肘の出方が安定しないといったが、要するに、その軸が投げる時には曲がっているってことだ」
「………」
 確かに、大和はこれまで“肘の位置”や“腕を振る”ことは強く意識していたが、軸のことは考えていなかった。ましてや、人差し指や中指のように、直接ボールに触ることのない小指のことなどは、全く関心の中になかった。
「あの……」
 新しく手に入れた知識を、使ってみたくなるのは人間の業である。亮から教えられた軸についての考え方を、大和は投球の中で形にしてみたくなった。
「試してみてもいいですか?」
「そうだね。また9球、ワインドアップで投げてみようか」
「はい」
「じゃあ、あたし戻るね」
「うん」
 桜子が距離を取り、ミットを構える。それを確認してから大和は、ワインドアップのモーションから足を踏み込み、重心を移動させ、肘と小指を結んで顕れる“軸”を意識しながら、リリースまでの動きをこなした。
「!」

 ひゅん!

 という、風を切るような手応え。それぐらい、スムーズに腕が振れた感触が大和の中に生まれる。
「わっ!?」
 その指から放たれたボールは、浮き上がるような軌跡を残して、桜子が上に伸ばしたミットの先を飛び抜けていった。
大暴投である。桜子は慌てて立ち上がり、後ろに逸れたボールを追いかけた。
「ありゃ。どうした?」
「若狭さん、ごめんなさい!」
「おぅ、珍しいな。草薙が、すっぽ抜けなんてよ」
 フリー打撃中のグラウンドを平行するように、転々としていたボールを、打席に入りかけていた若狭が捕まえて投げ返した。幸い、打順が切り替わる準備の最中だったので、練習の妨げにはならなかった。
(びっくりしたぁ……)
 まさかの大和のコントロールミスだ。これまでは、ミットを構えさえすれば、その位置に寸分違わぬストレートを投げ込んできたというのに。
(でも、抜けたんじゃない)
 ただ、若狭が指摘したように“すっぽ抜け”だったかと言われると、そうでもない気がする。桜子の目に見えた球筋は、確かに高めではあったが、そこから更に浮き上がる軌跡を残していたからだ。
 制球を度外視すれば、今まで受けた中で最も“伸び”のある直球だった。
(今のは……)
 投げた本人が、そのことを一番実感していた。不安のあったワインドアップからの投球にもかかわらず、違和感のないまま腕を振りきることができたのだ。
 感覚としては、真ん中のコースに投じたつもりだった。リリースの位置も、間違いはなかった。それでも、桜子のミットさえ通り抜ける“暴投”になってしまった。
(腕が振れた分、リリースの位置がずれたのかもしれないな…)
 その反省を踏まえ、大和は二球目を投げる。今回もまた、違和感は顔を出さない。


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