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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-256

 沈んだ様子をはっきりと見せていた桜子は、大和の謝罪に救われたように、今度は小さく首を振った。気にしてないことを、伝えるために…。
(いかんな、まったく)
 彼の傷口を知っていながら、それに触れてしまったことを亮は反省する。興味や感情が先走って、相手の気持ちを置き去りにするようでは、指導者として失格である。
(まさか、こんなところでお目にかかれるとは思わなかったからな…)
 亮が、大和のことを“甲子園の恋人”だと見切ったのは、大和の投球フォームを間近で見ていたその時だ。
 “豪快一打”の藤島満でさえもかすむほど、彼の野球に関する知識は深く、当然、甲子園で一世を風靡した“甲子園の恋人”のことも知り尽くしていた。テレビや雑誌で何度も取り上げられた投球モーションは、覚えるぐらい目にしており、マウンド上で彼が見舞われた悲劇の瞬間も、画面越しとはいえリアルタイムで遭遇している。
 名字が変わっていても、そうあるものではない“大和”という名前。見惚れるぐらいに、しなやかな投球フォーム。そこに、“肘の故障歴”というファクターが加われば、いまここにいる“草薙大和”が、“甲子園の恋人”と呼び騒がれた“陸奥大和”と同一人物であることは、亮にとって解答の難しくない問いである。
 だからといって、無神経に過去に触れていいものではない。それに、名字が変わったと言うことは、家庭の事情が当然そこにはあるわけで、彼にとっては“陸奥大和”という名前は、痛みの伴う過去だということも、想像に難くない。
(いまここにいる彼が、彼の全てだ)
 過去の姿にとらわれることなく、現在の姿をよく見るのだ。そう気を取り直し、亮は大和への指導を改めて始めることにした。
 投手としての彼が持つひとつのキーポイントは、故障経験のある“肘”である。
「痛みは、どうなんだい?」
「今はもう、全くありません。でも、思うように腕が振れなくて……。今日だけなら、試合の時はすごく調子よかったんですけど、今はまた元に戻った感じです」
「なるほど」
 亮にも思い当たることはある。最終打席での勝負は、大和の直球に押されっぱなしだったからだ。ただし、自分が本塁打を打ち放った最後の一球は、明らかな“抜け球”であり、彼の投球が完全な状態ではないことを示していた。
「投球モーションそのものは、教科書に載せたいくらいに理想的な形だよ。一定した踏み足の位置、下半身の安定、スムーズな重心の移動…。文句のつけようがない」
「そう、ですか?」
「うん。惜しむらくは、リリースに入る瞬間の、肘の出方が安定していない。これは、故障したことが影響しているんだろうな。セットポジションの時は、比較的安定していたけれど、ワインドアップになると顕著にズレが見える」
「………」
 それは、“豪快一打”で始めた練習でも気にしていたことだ。ただ、彼は満のように“肘の位置”と言わずに、“肘の出方”と口にした。似たような言葉であるが、ニュアンスは明らかに違っている。
「指先を伸ばして、右腕を真っ直ぐにしてみてくれるかい?」
「? こう、ですか?」
 言われるまま、腕を伸ばす。
「そのまま、手を回転させてみてくれ」
「は、はぁ……」
 その意図はわからなかったが、大和は伸ばした腕の先にある手のひらをくるりくるりと、亮が止めるまで、表と裏に反転させる運動を繰り返した。
「野球というのは、投げる方も、打つ方でも、“回転の運動”が重要になってくる。稼働域の大きさはそのまま、強いスイングや、切れのいいボールに直結してくるわけだが、もうひとつ重要になってくるのは、“軸の安定”だ。コマを想像すれば早いんだが、いくら強い力で回転を与えても、軸が真っ直ぐになってないとすぐにブレて、コマは止まってしまうだろう?」
「………」
「今、腕を回転したけど、その“軸”は何処にあると思う?」
「えっと……」
 大和はもう一度、手を反転させてみた。中指を機転にして、自分の手は表裏に回転している。
「こういう感じでしょうか」
 そこで、グラブの先で、肘から中指まで一筋になる線を描いてみた。


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