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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-24

 ぎん……

「新村さん!」
 三球目を、遊撃手である新村の上空に打ち上げた。それは何の勢いもないフライとなって、まずは一死を奪取した京子。
「アウト!」
 続く2番打者も、セカンドゴロに打ち取って、瞬く間に二死を奪った。
「やあやあ、相変わらず調子の良いようで」
 相手の3番打者は、松永である。余裕のある笑みを浮かべながら左打席に入り、バットを構える。
「!」
 大和はその構えを見た途端、背筋を寒くした。それは、甲子園で戦い続けた彼が持つ鋭い“嗅覚”の成せる業である。
(腰とか、手首とか、凄いバネが利いてる……)
 経験者というレベルではない。あの選手は明らかに、草野球とは思えないほどハイレベルな技術を持っている。
 それは、そうだろう。なぜならこの松永という男は、ほんのわずかな期間ではあったがプロの球団に在籍していた過去を持つのだ。もっと遡れば、高校野球では甲子園の常連校であった“神栄学園”で主砲を務め、春の選抜大会で準優勝という輝かしい実績も持っている。その大会では、記録に並ぶ3本の本塁打を放ち、“神栄に松永あり”と世間に広く知らしめた。
 “10年に1人の逸材”と謳われ、大学野球を経てから複数の球団による獲得競争の末、東京ガイアンズに入団した彼は、しかし、その才能を開花させることなく早い段階で退団した。プロになった瞬間、傲慢になった彼は素行にいろいろと問題を生じるようになり、“何事にも紳士たれ”という球団の方針に背く行動ばかりを繰り返した。だから、“退団した”というよりは“退団に追い込まれた”というのが、正しい。
 しかし松永はそれに消沈する様子も見せず、むしろ面倒なプロの世界から抜けることが出来て嬉々としていた風でもあった。
 手に入れた破格の契約金、そして、一部の裏金。素行に問題はあるが豪奢な生活を送ろうとしなかった松永は、そのわずかな選手生活の中だけでかなりの財産を作っていた。それを元手に、投機や株で資産を肥やし、今では“松永不動産”の代表取締役として、さらに事業を拡大している。別の話になるが、入団当時、とある経営コンサルタントに脱税指南を受けたという話もあり、しかし彼の事実関係は完全に解明されなかったため、松永は球界を揺るがせたその事件も、疑惑の隙間をぬうようにゆらりゆらりと泳ぎきってしまった。
 いろいろな意味で、才智のある男なのだ。そして、その才能は、野球というひとつの器だけでは収まりきらなかったところに、彼の“不幸”はあったのかもしれない。だから常に満たされず、貪欲に“利”を求めて続けてしまう。
 結果、彼にとって特別なものであったはずの野球でさえも、金銭にまみれたものになった。ほとんど趣味の範疇を出ないとはいえ、かつて自分を輝かせたスポーツさえ躊躇いもなく“金”の手段にしてしまった彼は、いよいよ何事につけ打算的な思考を強くしていったといえよう。

 スパン!

「ボール!」
 バッテリーは慎重だ。やはり相手の凄さを、知っているのだろう。なにしろ先に一度だけ対戦したときは、審判の辛い判定によってストライクゾーンが狭まったというハンデもあったが、二本の本塁打も含めて松永には痛い目にあわされた。
「………」
 京子の足があがる。そうして放たれた二球目は、インコースの厳しいところを貫く、重いストレートだった。
(ふん)
 瞬間、松永の腰が回転し、それを軸に遠心力の働いたバットのヘッドが、鋭い軌跡を描く。それは、鋭利な刃物のように空気を切り裂いて、膝元を攻めてきた京子のストレートを、強烈に叩いた。


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