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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-25

 ごっ!

「!」
 軟式ボールが、空高く舞い上がる。ライトを守っていた桜子は、自分の上空を遥かに高く越えていくそのボールを、しかし、諦めることもなく追いかけた。
「あっ、あ……」
 そんな桜子を置き去りに、ボールはスタンドフェンスを見立てた緑色のネットを遥かに越えて、向こう側のグラウンドを転々としている。
 桜子はそれを、呆然と見送ることしか出来ない。他のメンバーたちも同様だ。
 先制のソロ本塁打。マウンドで打球を追いかけていた京子は、下唇を噛む。
「やれやれ。相変わらず、歯応えがないですねぇ」
「くっ……」
 挑発にも思える軽口を残し、悠々と塁を廻る松永。打たれた京子はその侮辱を、聞き流し耐え忍ぶことしかできなかった。

 初回の相手の攻撃は、松永の本塁打による1失点で凌いだ。4番、5番と連続安打を許し、得点圏に走者を置きはしたが、6番の痛烈な二遊間の辺りを新村が好捕し、追加点をゆるさなかった。
 だが、明らかに京子の速球は、相手にタイミングを掴まれている。大和は、この先にある大量失点が頭をよぎり、落ち着かない気分になった。
「よう凌いだ!」
 少し重い雰囲気をまとっている空気を払うように、龍介は大きく手を叩いて、追加点の危機を乗り切ったナインを労わり、鼓舞する。味方が優勢でも劣勢でも、変わらない彼の陽気なところは、チームにとって大きな救いである。
「やっぱり、ストレートだけじゃ厳しいな」
 プロテクターを外しながら、捕手を務める原田が呟いていた。
「俺がもう少しまともなキャッチャーなら、京子くんに力を抑えさせることもないが……」
「原田さん」
 京子は複雑な表情を浮かべていた。
 原田は、本当は、捕手の経験がほとんどない。高校の頃は外野を守り、大学時代には背の高さを生かして一塁手に転向していた。
 一塁手は、内野に散るゴロとなった打球の処理で、締めとなる“送球の捕球”を任されているポジションである。したがって、“球を捕る”ことへの意識は強くしていなければならない。
 結果、ドラフターズの中では、一塁手の経験が深い原田以上の“捕球力”を持っている野手はおらず、本職ではない捕手の座につかなければならないという現実が残った。
「………」
 京子のストレートは、その球質が重い。故に、ある程度の相手であれば、加減を抑えたストレートでも充分に通用するのだが、近隣の草野球チームの中では圧倒的な強さを誇る“シャークス”に対しては、やはりそうはいかない。
「せめて、フォークを捕ることが出来ればな……」
 原田は悔しそうだ。大学時代には対戦相手として、何度も苦戦させられた京子のウィニングショットでもあるフォークボールは、あまりに切れ味が良すぎて捕手経験のない原田には捕ることが出来なかった。
 生真面目な原田はそれを気に病んでいる。京子が自分の実力を半分以上も出せないでいるのは、フォークを捕れない自分のせいだと責任を感じていた。
「原田さん、ダメだって。切り替え、切り替え」
 京子はもちろん、原田が少ない時間の中でも懸命に汗を流していることを知っている。試合が始まったばかりだというのに、負の感情で袋小路をさまよいかけている彼を苦笑しながら励ますと、ヘルメットを用意してウェイティングサークルに脚を運んだ。
「アウト!」
 1番の新村は、あっさりとセカンドゴロに倒れた。実は、新村は、あまり打撃が得意ではない。それでも1番に座っているのは、チームの中で割と脚が速い方だからだ。ドラフターズの選手層の薄さは、ここにも現れていた。
「京子さん! 頑張って!!」
 1点を先制されても、変わらず陽気さを振り撒く桜子の笑顔。彼女の明るさに励まされると、不思議なことに心が軽くなる。


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