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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-22

「こ、こんにちは」
 草球会のトップにある人物だけに、桜子も少しだけ身を固くしていた。面識がないわけではないが、義兄の龍介が慕い敬う人物だから、なにか偉い人のように思えてしまい、桜子はらしくもなく恐縮してしまう。
「やあ。初めて見る顔だな」
「いややなぁ、スーさん。ワイの、妹やないですか」
 龍介もその輪に加わるように、どすどすと寄ってきた。
「龍の字の? ああ、桜子ちゃんかぁ!」
 初めて見る顔だと思ったのは、鈴木の勘違いだった。ユニフォーム姿は初めて見るので、それと気づかなかったのだ。加えて、180を越えるその背丈によって、鈴木は桜子の顔を確認するまではすっかり“男”だと勘違いをしており、顔見知りであるはずの少女だということが認識できなかった。
「脚はどうなんだい?」
 顔見知りだから、そのあたりの事情も熟知している。その優しい心遣いに、桜子は満面の笑顔で、答えを返した。
「運動する分には、もう平気です」
「そっか、それはなによりだ」
 こうやって野球の試合に参加しようというのだから、完全とはいかないまでも、状態はいいのだろうと鈴木は理解することにした。
「?」
 鈴木は、今度は、その桜子の脇で会話のやり取りに耳を傾けている少年を見つけた。彼もまた、目が合った瞬間に帽子を取り、頭を下げてくれた。どうやら、挨拶をする機会を窺っていたらしい。
「はじめまして、草薙大和です」
 凛とした声音とその所作に、聡明で真摯な印象を受ける。鈴木はいっぺんに、この少年への好感度を高めた。やはり礼儀を知る人間は、見ていて気持ちがいいものだ。
「鈴木寛だ、よろしくな。君は……知らない顔、だな」
 回答を求めるように、龍介の顔を窺う鈴木。
「桜子のボーイフレンドですわ」
「ま、またっ!!」
 もはやそれが説明の定型句になっているかのように、龍介は答えた。
「フ、フレンドはフレンドだけど、その、ち、違うんです!」
 桜子は途端に顔を真っ赤にして“友達”だということを強調し説明したが、鈴木の中では“既成事実”ができあがってしまっているようで、
「そうか、そうか! ちょーっと、身長差はあるけど、なかなかお似合いじゃないか!」
 と、龍介と顔をつき合わせて高らかに笑った。
「うぅ〜……」
 桜子はもう、何を言っても油を注ぐだけのような気がして、頬をゆだらせながら口をつぐむことしかできない。
(楽しい人たちだなぁ)
 一方で大和は、意外なほど冷静だった。
「………ん?」
 そんなふうに楽しそうだった鈴木の笑顔が不意に、怪訝な表情に変わる。突然に変化した鈴木の様子に、龍介と桜子は同時にその顔を見やった。
「初めて見た……にしては、何処かで見覚えがある」
 そう言って、大和の顔を凝視しながら考え込む鈴木。記憶の欠片を、拾い集めているらしい。
「ううむ、何だったろう?」
 確かに引っかかるものはありながら、どうにも形をなさない自己の記憶。
「気のせいだと、思いますよ」
 自分が“甲子園の恋人”と呼ばれた過去に、あえて触れないできた大和は、それを思い出しかけている鈴木に対してお茶を濁し、話題を反らしにかかる。
「あっ……」
 不意に鈴木が、脳天に豆電球を点した。その様子に、思わず大和は身構える。
「似てるんだ。あの、ジ◇ニーズの、滝……滝……ううむ、その、何とかに」
 “◇沢”の名前がついに出なかった、三十路を越えたばかりの鈴木であった。
(ほっ……)
 後ろめたいことは何もないはずだが、大和は安堵の吐息を漏らす。
「ドラフターズの皆さん、もうすぐ試合を始めますよッ! 鈴木さんも、向こうで試合でしょう!」
「おお、すまん、すまん」
 和やかなやり取りが落ち着いた頃を見計らったように、その集まりに声がかけられた。鈴木は“長話をしすぎた”と苦笑いを浮かべ、
「じゃあ、みんな。怪我をしないように、頑張ってくれ」
 と、言葉を残して立ち去った。


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