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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-21

「う〜ん……」
 釈然としないものを感じた様子の桜子ではあったが、トーナメントの組み合わせが終わり、そのまま、簡易とはいえ行われる大会の開会式に移行すると、たちまち緊張を顔にみなぎらせた。
「みんな、今日も朝から、ご苦労さん!」
 開会式は進み、発足人であることから草球会の代表となっている鈴木寛の挨拶が行われていた。
 鈴木は、三十路を越えてはいるが、背を丸めて町を歩く大学生よりも遥かに若々しい空気をまとっている。引き締まった身体は、スポーツに通暁している証でもあるだろう。
「いろいろ世知辛い世の中だが、今日は野球で盛り上がって、ストレスを解消しようじゃないの、なあ! 実は俺、“今度の日曜は絶対にどっかに連れてけ”ってカミさんに言われてたんだが、野球の予定は絶対に外せねえ。おかげで今度の三連休は、へそくりがすっぱり消えることになっちまった! あっはっは!!」
 どっ、とグラウンドが湧いた。この雰囲気に引っ張られるようにして、草球会は出来上がったともいえる。
 桜子も、公の場で初めて聞いた鈴木のスピーチに、腹を抱えて笑っていた。
(そうだよ……)
 少しだけ湧いた胸の不快さを拭ってくれる、鈴木のスピーチと桜子の明るい表情。野球という競技を通じて連なっている絆の輪にあることを、京子は嬉しく思う。
(だからあいつらに、負けるわけにはいかないんだ)
 そして、その輪に馴染もうとしないシャークスの松永に対する敵愾心を、激しく募らせるのであった。



「いよう、京の字。旦那は元気か?」
「スーさん」
 開会式が終わり、試合が行われるグラウンドにそれぞれのチームが散っていく中、会長である鈴木が京子のところに寄ってきた。実は、京子にとって鈴木は、大学時代の先輩に当たり、わずかな期間とはいえ共に“隼リーグ”を戦った盟友でもある。
「このところ当たりがなかったみたいだから、ちょっと気になってたんだ」
「大丈夫ですよ。ロード(プロ野球において、自軍の本拠地を離れ、各地の球場を転戦する期間のこと。長い移動時間・距離、ホテルでの長期滞在など、本拠地での試合に比べはるかに疲労が蓄積する)も長かったし、それに、昨夜はたっぷりサービスしてあげたから、今晩はいつも以上に腰が廻るんじゃないかしら」
「………」
 大人の会話であった。それだけ濃厚で長い夜を過ごしたとは思えないほど、今日の京子は肌がつやつやしているような気もする……おそらく、久しぶりに旦那と睦みあったことで、彼女もまた満足を得たのだろう。
 ……少し、脱線する。
 京子の夫である“管弦楽幸次郎”なる人物もまた、鈴木にとっては後輩にあたる。そして、天才的なその打撃力は“隼リーグ”の中でも記録ずくめの成績を残し、それをとあるスカウトマンに評価された彼は、今ではなんとプロ球団である千葉ロッツマリンブルーズに所属していた。つまるところ京子の旦那は、プロ野球の選手なのである。
 軟式野球から硬式野球への転向は、特に打者にとってはかなりのハンデになったであろうが、入団して3年目ぐらいから目を見張るような成長ぶりを見せ、今では千葉ロッツの押しも推されぬ主砲の座にあった。今年のオールスターゲームでも、監督推薦ではあったが初めて選出され、その試合で場外本塁打をかっ飛ばしたものだから、名実共に千葉ロッツの顔になりつつある。
 チームは既に優勝争いから脱落して久しいが、個人タイトルではトップに手が届く数字を維持しており、ロッツファンにとってはその管弦楽の打撃が今では楽しみになっていた。そして、鈴木もその中のひとりである。
「おや」
 その鈴木が、京子のすぐそばにいた大柄な影が女性であることに気づいた。それで目が合った桜子は、すぐに会釈をする。


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