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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-215

 それを後目に、2番打者である航君が打席に入った。一死一塁の状況だ。セオリーで行けば、バントで送るのは間違いない。
「………」
 そこで桜子はまず、カーブを要求した。球筋が素直なストレートでは、簡単にバントを決められてしまうだろう。ここは、変化球で追い込む必要がある。
 変化の大きさなら、ドロップの方がバントは更に難しくなる。ただし、速度がないので、亮にスチールを許してしまう可能性がある。だから桜子は、カーブを選択したのだ。
 しかし彼女は、カーブを外して四球を与えた雄太の心理状況までは把握していなかった。しかも彼は、四球も連続してボール球を投じているのだ。投手心理としては、ストライクを投げておきたい気分だろう。
 それが焦りに繋がったのか、一塁走者の亮に対してほとんど牽制をしないまま、雄太は初球の投球モーションに入ってしまった。
「!」
 その焦りを見越していたように、モーションの始動と同時に亮がスタートを切った。追い込まれてもなお慎重にボールを見極め、ひと振りもしないで出塁した選手とは思えないほど、攻撃的な走塁である。
 雄太はサウスポーなので、スタートを切った亮の姿は視界の隅に入る。スチールの可能性を全く見落としていた彼は、その動きに意識を取られてしまった。
 投球に集中しきれなかった雄太のカーブ。それは、ボールに回転を与えるための“抜き”を失敗したような、変化の甘さがあった。
「あっ!」
 バットを水平に構えていた航君が、瞬時にグリップを引いてそれを縦に握り直す。その動きは、初めから用意されていたようにスムーズであった。
(バスター!?)
 典型的なバスター・エンド・ランである。打者と走者の呼吸がかみ合っていなければ決めることのできない、とても高度な作戦だ。

 キン!

 変化の甘いカーブを、航君はおっつけながら確実にミートする。なかなか巧みなバットコントロールである。
 ボールは強いバウンドを刻みながら、一二塁間を転がった。
「こ、こっちにきた!?」
 二塁手の吉川は、スチールを始めた亮を追いかけて、セカンドベースのカバーリングに入ろうとしていた。それゆえに、まるでゲートが開いたかのように広くなった塁間を、その打球は抜けていった。
「!」
 ショートの岡崎が、ライトの方向を見ていることを確認した亮は、セカンドベースを一気に駆け抜ける。品子が打球を捕まえ、セカンドにワンバウンドで投げ返した間に、亮は三塁まで陥れていた。
「………」
 一死一・三塁。攻める側としては、何十通りものパターンを用意できる理想的な状態である。守る側としては、これを無失点で切り抜けるのは至難である。
「タイム!」
 思い余った桜子は、自分だけではどうにもならない状況を自覚して作戦タイムを取った。意思の疎通を、マウンド上の雄太と図るためだ。
「悪いな、桜子。牽制を忘れちまってた」
「え…。う、ううん。あたしも、慎重になりすぎたと思います。先輩、ドロップがよく決まってたのに、余分なボールを投げさせちゃったから……」
「気にすんなよ。ストライクを投げられなかったのは、俺なんだからな」
 雄太は、亮の雰囲気に飲まれた自分を自嘲していた。
「一・三塁で、晶さんか…。ワンアウトだけど、どうするよ?」
 タイムリーを打たれている晶に、またしても好機で打席が廻ってきた。雄太の問う言葉の中には、“敬遠して、満塁策でもとろうか?”という意識が見える。


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