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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-216

「そうですね……」
 晶の次に控える4番打者は、ドロップにタイミングがあっていない。それに、塁を埋めてしまった後は、フォースプレイ(*ベースタッチで走者をアウトにできる)でアウトカウントを稼ぐことができる。
 守りやすさを取るならば、満塁策は妥当な選択と言えるだろう。
「そうしたほうが……」
 いいかも、と言いかけた桜子。しかし、その言葉を形にしようとした瞬間、何かが胸の奥からせりあがってきた。

 “逃げたら、いかんぞ!”

 消極的な姿勢を責める、心の声である。バレーボールの国際大会で、自分が選ばれていた代表チームの監督に、何度も投げかけられた言葉でもあった。
「勝負しましょう!」
 己を奮い立たせるかのように、彼女は力強く言い切った。
「さっきはタイムリーだったけど、いい当たりだったわけじゃないから…。先輩のドロップなら、晶さんを充分に打ち取れますよ! 勝負でいきましょう!!」
彼女が取り戻した前向きな気持ち…。
「よっしゃ、わかった。勝負するぞ!」
「はい!」
 雄太にもそれが伝播したようで、いつもの気迫が甦っていた。
「勝負するかな?」
「しますよ」
 バッテリーの様子を、三塁キャンパス上でご対面となった大和と亮は見守っている。
「満塁の方が、守りやすくならないか? それに、晶には初回にタイムリーも打たれているじゃないか」
「それでも、ここは勝負ですよ。でないと、この試合はもう負けです」
「ほう」
 その言葉には淀みがない。彼には、試合の流れを見抜く力があるのだろう。
「まだ序盤です。ちょっとピンチになったからって、逃げて0点に抑えても、勝つための勢いなんか出やしませんよ」
「そうだな。その通りだ」
 熱を帯びたその口調には、野球に対する熱い想いがたっぷりとこめられていた。寡黙な印象こそあるが、静けさの奥に秘めている情熱には、相当の熱さがありそうだ。炎の最も高熱な部分は透き通って見えるものだが、大和の中にある“野球熱”はまさにそれであった。
『あなたに、似てるかもしれないわ』
 ふと、晶がそんなことを言っていた。盟友・エレナが率いることになった軟式野球部に、もの凄いセンスを持った少年がいたという話を聞いたときのことだ。
似ているかどうかはともかくとして、彼には確かな魅力があった。能力の高さもそうであるが、野球に対する真摯な姿勢も見ていて好ましい。亮の大和に対する関心は、募るばかりである。
 もう少し、込み入った話をしてみたい気もしたが、
「プレイ!」
 主審の栄輔が試合の再開を告げたので、亮は試合に集中することにした。
「まずひとり! しっかりとっていきましょう!」
 ピンチを迎え、やや萎縮をしていた趣のあるバッテリーは、タイムを経た後は見違えるような気迫を取り戻していた。
「応!」
 バッテリーの雰囲気は、そのまま周囲に影響を与える。エンドランをいいように決められ、浮き足立っていた感のあった野手陣は、威勢を取り戻した桜子の掛け声を受けたことで、何かの呪縛を解かれたように覇気が甦った。
 雄太がプレートに脚をかける。視線で塁上の走者二人に牽制をしかけると、素早いモーションから初球を繰り出した。
「ストライク!」
 晶の目から見て、外側に滑っていくカーブ。最初の打席と同じように、スクイズを警戒した初球の入り方だった。
「スクイズはないで! いけいけや、晶ちゃん!!」
 そしてこれまた最初の打席と同じように、メガホンをガンガンと景気良く叩きながら龍介はベンチでのたまっている。 言葉には裏がないので、スクイズの線が消えたことはまたしても確実になった。
(はは。攻撃の幅を減らしてるよ、赤木さん)
 思わず亮は、苦笑していた。スクイズがあるかもしれないと相手に匂わせれば、それだけでもプレッシャーを与えることになるのだが、龍介はそういう細かい心理戦を考えていないのだろう。
 采配を振るう者としては幅がなくとも、人間味が溢れていて好ましいと亮は思う。これもまた、野球の形なのだ。


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