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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-213

 大和でさえ、わずかに腰を引いたクロス・ファイヤー。しかし、それに立ち向かおうとする桜子は、怯む様子を全く見せない。身体に当たるかもしれないという意識はなく、自分に向かって迫ってくるこのボールを、強く打ち返そうという揺るぎない意志があるだけだった。
 幅の小さなステップで重心を身体の軸に移し、グリップが先に出ないように注意しながら、腰の回転を始動させる。ヘッドの位置がぶれて、スイングが波を打たないように、両脇をしっかりと締めながら…。

 ブンッ……!!

「!」
 真っ直ぐに軸が伸びたまま回転した桜子のスイングは、風を切るような鋭い音を生み出した。それだけの強さが内包している証である。

 キィン!

「おぉっ!」
 バットから弾き出された角度の良い打球。それは、右中間に鋭いライナーとなって雄飛した。
「いったんじゃねえか!?」
 雄太が打球を追うようにベンチから身体を乗り出した。双葉大の誰もが、オーバーフェンスはないまでも、右中間を抜けていく長打を予想していた。
 しかし、である。
「アウト!!」
 塁審を務めているのは、ドラフターズの控えメンバーだ。その彼が振り上げた拳は、高く天を指していた。
「えっ、捕られちゃったの!?」
 信じられない、というように中堅のあたりを窺う桜子。手応えがあったことを一番感じていたのは、ボールを弾き出した彼女自身なのである。
「センター・ライナーかよ……」
 右中間を破る勢いで放たれた打球は、相手の中堅手に捕球されていた。それも、余裕がありそうである。
「ナイスだ、航!」
 マスクを外して打球の行方を追いかけていた亮は、センターがこれを好捕したことを知ると、ミットを高々と掲げてそのプレーを讃えていた。
(あのセンターは、2番の人だな)
 まるで何事もなかったかのように、捕ったボールを内野に返す中堅手。二度、亮に名前で呼ばれた彼は、名字はわからないが、名は“航(わたる)”というらしい。
 いくら良い打球を放ったとはいえ、アウトになればそれは意味がない。ベンチに戻ってきた桜子は、見るからに無念そうな顔つきをしていた。
「残念〜」
「いや、ナイスバッティングだったよ。あれは、センターのファインプレイだから」
 ボールを背に負いながら、落下地点を計算して素早くその位置に走りこんだからこそ、ライナーで抑えることができたのだ。そのためには、足の速さもさることながら、飛球に対する正しい距離感の把握が必要である。
「あのセンター、守備範囲が広いな。上手いもんだ」
 観察眼の鋭い岡崎も、相手の中堅が名手であることを認めていた。
「桜子さん、知ってるかい?」
「ううん。あたしがドラフターズにいたときは、見たことない。それに、まだ高校生じゃないかなぁ」
 上背が少ないと言うのもあるだろうが、顔つきにまだあどけなさを感じる。 加えて、打球を追いかける時に脱げてしまった帽子の下は、坊主頭からやや髪が伸びた程度の、何処かの野球部員と言っても差し支えのない姿をしていた。
「彼も、助っ人なのかな?」
 よく見れば、ドラフターズのものと違うユニフォームだ。飾り気のない白地のそれは、亮が着ているものと似ている。 ひょっとしたら、野球部の練習着なのかもしれない。
「木戸さんの知り合いだとは思うんだ。名前で、呼んでたから」
「うーん。やっぱり、知らないなぁ」
 憶測は、憶測でしかない。ただ言えるのは、あの中堅手は広い守備範囲を持っていて、相手チームの中でも群を抜く野球センスを持っているらしいということだ。
「ストライク!!! バッターアウト!!!」
 そんなベンチのやり取りを余所に、6番の若狭はあえなく三振に倒れていた。4番の大和から始まる回でありながら、結局のところ三者凡退で終了したのだった。


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