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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-203

「!」

 ぶん…!

「ストライク!!! バッターアウト!!!」
 そのスイングは、しかし、球を捉えることもなくあっさりと空を切っていた。タイミングが完全にずれた、無様なスイングである。
(そういえば……)
 三振を奪われた球種は、チェンジアップであった。春先の練習試合でもお目にかかった、緩く沈んでいく変化球だ。ストレートしか頭になかった雄太は、ものの見事に釣られてしまったわけである。
 三者連続三振…。攻撃の足がかりを窺う隙もなく、あっさりと双葉大学の初回は終了した。


 攻守が入れ替わり、マウンドに集まった双葉大の内野陣。
(………)
 中心に立つ雄太の様子が、いささか強張ったものになっている。普段の陽気で気さくな雰囲気が感じられない。大和には、彼が気負っているようにも見えた。
「屋久杉、顔が渋いぜ。どうした?」
 ファーストミットで軽く雄太の胸を小突きながら、若狭が言った。雄太の厳しい雰囲気を、和らげようという意図もあったのだろう。
「ああ、悪い悪い」
 それで我に帰ったわけではないのだろうが、深く息をついて、雄太はようやく笑顔を見せた。
「桜子」
「はい?」
「あの二人は別として、だな。龍兄のチームのこと、どれぐらい知ってる?」
 臨時の助っ人として相手チームに入っているバッテリーが、図抜けた実力者であることは初回の対戦で十分に知った。 一方、ドラフターズの正規のメンバーたちが、どれほどの実力であるかは今のところ判然としない。
 そして桜子は、双葉大に入るまでの一時期、ドラフターズの一員として野球をしていたのだ。ある程度の情報を、彼女に期待するのは当然である。
「えっと……」
 ただ、桜子がメンバーとしてドラフターズに参加していた期間は、実のところ1年にも満たない。加えてその頃は、何かを考えることもなく好きな野球を気ままに楽しんでいたから、チームメイトの情報を深くまで突き詰めたこともなかった。
「大まかな所は、わかるんですけど…。引っ張るのが多いとか、小技が上手いとか…」
 それを雄太に伝えた後、さすがに“何も知らない”というのは気が憚ったのか、なんとか引っ張り出すようにして記憶を掘り起こす。
「充分だぜ」
 何か情報があるだけでも、ありがたい。
「リードは、まかせたからな」
「は、はいっ」
 バッテリーを組んだ当初は、雄太が決めた配球に従いそのボールを受けていた。しかし、最近はそのリードもほとんど任されるようになっている。数試合のキャリアを重ねることで、桜子のリードも随分と様になってきたからだ。
「よし!」
 気合を入れ直すように、雄太がグラブを威勢良く叩いた。それを合図に、内野陣はそれぞれの守備位置に散っていった。
(キャプテン、やっぱり気負いがある)
 いつもの余裕がないことは、誰の目にも明らかだ。大和はいつにない彼の気負いに、かすかな不安を感じている。
(それだけ、あのバッテリーからプレッシャーをもらったんだろうな……)
 雄太が手も足も出ずに三振に取られた一部始終を、大和はウェイティングサークルで見ていた。圧倒的に違う格を見せ付けられれば、それが、“負けてたまるか”という自負の高まりを生むのは仕方のないことでもある。
(相手のトップバッターは…)
 イレギュラーバウンドを防ぐため、守備位置周辺の地面を丁寧に均しながら、大和は打席の方を見た。
(あの捕手の人か)
 ドラフターズの1番打者は、先刻までマスクとプロテクターを身につけていた選手だった。双葉大の主力である岡崎と雄太を、手玉に取ったリードをしてみせた捕手だ。


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