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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-202

「ストライク!!! バッターアウト!」
 外角低めに投じられた直球に、岡崎は全く出が出なかった。球筋を完全に見失っていたのは、二球目のインコースで体を起こされ、足の位置が幾分後ろに下がっていたからだ。
(まいった)
 内外を出し入れする典型的な配球に、岡崎は一蹴されたのである。初球に“ど真ん中”を投じられ、わずかとはいえ混乱したのも認めなければならない。
(あれが、あの人の本当の実力か…)
 ストレートの回転力と伸びが、明らかに違っていた。これこそが、彼女の本気の投球なのだ。
「やられたよ」
「珍しいな、お前が全部見逃しなんてよ」
 2番の栄村を打席に送り出し、空いたウェイティングスペースに立った雄太は、三振することさえ珍しい岡崎の“全球見逃し”を怪訝に思いながら声をかけた。
「春の時とは、比べ物にならない」
「あの時は、試合って言うよりか、練習って言った方が良かったもんな。キャッチャーも小学生だったしよ」
「そうだろうが、何にせよ桁違いだ」
「岡崎?」
「同じ人だと、思うなよ」
「お、おう…」
 ほとんど独り言のように言葉を残し、岡崎は雄太の傍を離れていった。
(あいつが、あんなに悔しがるとはよ……)
 さらに珍しいものを見た、という思いを抱きつつグラウンドに戻した視線の先では…、
「ストライク!!! バッターアウト!!」
 栄村がやはり同じように、今度は空振りの三振に切って取られていた。2部リーグでもずば抜けた出塁率を持つ1・2番コンビが、まるで赤子の手を捻るかのようにあしらわれたのである。
(ちょっと、グリップを余すかな…)
 岡崎の話では、球の伸び具合が特にいいという話だ。栄村も、同じことを言っていた。アウトコースの低めから、ボール球になると思って見逃したストレートが、まるで浮き上がるようにストライクコースを抉ってきたとのことだ。
「ストライク!」
 なるほど、その通り。外角低めに投じられた雄太への初球は、浮き上がる軌跡を描いてストライクゾーンを貫いていた。
「………」
 グリップを握る手に力がこもる。圧勝してきた2部リーグの試合では、ほとんど感じ得なかった相手からのプレッシャーに、雄太も呑み込まれた。
 二球目。今度はインコースのストレート。膝元をぎりぎりに突いてきた威力のある直球に、雄太は全く手が出なかった。当然、ストライクをコールされ、あっさりと追い込まれてしまった。
(雄太……)
 あまりにも消極的な打席内での雄太。それを見守る品子の顔が、曇る。いつもなら溌剌とした陽気を放つその背中が、あまりにも小さく縮こまっているように見えたからだ。
(な、なんだ……?)
 信じられない思いでいるのは、雄太も同様である。まるで魅入られたように、勝負のイニシアチブを奪われてしまった。
「ボール!」
 インハイを突くストレート。横から見ればそれは、数個分は高めに外れている完全なボール球だ。
「あ、あぶね……」
 ところが雄太は、それに手を出しかけて止めていた。相手の釣り球に、引っかかっていたのである。スイングを取られなかったのは、ひょっとしたら審判の温情だったのかもしれない。
(確かに、違うぜ…)
 相手バッテリーの手の平で躍らされている自分を知る。ここまでは、言いようにあしらわれている。さながら、“蛇に睨まれた蛙”である。岡崎の言うように、春先で対戦したときとは全く違うアグレッシブな投球内容に、雄太は押されている。
(くそっ、しっかりしやがれ!)
 自分を叱咤して、気合を入れなおす雄太。それが力みに繋がることにも気付かず、雄太は気負いを強めていた。
 悠然と振りかぶり、柔らかいモーションから晶は腕をしならせる。その腕から放たれるストレートの球筋を予測しながら、雄太はバットを振りにかかった。


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