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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-163

 キィン!

 続く打者が、大和の初球を叩いた。それは爽快な音を残して、一二塁間を鮮やかに破る。ライトの品子がそのボールを何とか掴み、内野に投げ返した。安打である。
「タイム!」
 桜子が主審にそう告げると、早足でマウンドへ向かった。
 彼女の言葉を聞いた瞬間、雄太と岡崎は示し合わせたように大和の側に寄る。若狭と吉川も、慌ててその輪に加わってきた。
「大和くん、肘は?」
 桜子には分かっていた。明らかに、大和の球威が落ちている。いわゆる“棒球”ばかりが続いたこの回の大和のストレートに、肘に対する不安が募ったのだ。
「肘は、平気だよ」
「ほんとに?」
 無理をしているのではないかと桜子は思い、彼の顔を凝視する。それを受け止めてなお、表情を変えない大和の様子を見て、桜子は肘の故障が再発したのではないと確信し、安堵を覚えた。
 だが、桜子はすぐに難しい顔つきをする。ホームランを打たれ、鋭い当りのヒットを打たれ、この回の大和は“スタミナ切れ”を起こしていることがはっきりとしていたからだ。
(疲労が、一気に来たか)
 それは、雄太も察している。
(交代するか?)
 試合が始まる前から継投を見越していた雄太は、試合が始まる前に投球練習を行い、肩を作っていた。7回まで進んでいるから間隔は空いたが、既に一度出来上がっている肩は、わずかな投球練習でも、すぐに暖まるだろう。
「………」
 だが雄太は、それを言い出しはしなかった。この試合は、大和と桜子のバッテリーに全てを委ねている。彼らが交代を決めない限りは、雄太は口を出すことをしない。
 桜子がベンチを窺った。見守るようなエレナの視線がすぐに目に入ったが、やはり彼女も何も言わない。全ての判断を、選手たちに委ねて泰然としている。
(うぅ……)
 思いがけず、チームの決定を託された桜子は悩んだ。捕手として最も難しい、自分が受けている投手の限界を見定め、それを伝えなければならないことが、これほどに苦しいものだとは…。
(大和くんは、“まだ投げたい”と思っている)
 先発として預かったマウンドを他人に譲るというのは、はっきり言えば屈辱である。それが回の途中であれば、尚更だ。
(大和くん……)
 涼しい顔つきではあるが、その瞳には漲る意志の強さがあった。
「打線は、下位よ」
 桜子がようやく口を開いた。その言葉は、大和にだけ向けられている。
「大和くん、しっかり抑えて」
 それが、彼女の決定であった。
「ああ、わかった」
 もちろん、とばかりに大和は力強く頷く。それを受けて、雄太も岡崎も、桜子の意思と大和の意志を認めるように、それぞれの守備位置に散った。
(桜子は、旦那のケツを叩くタイプだな)
 疲れが来たのか、幾分精気に翳りを見せていた大和だが、桜子の叱咤を受けた途端にそれが回復している。どちらかというと、おっとりしているように見える彼女の、意外な芯の強さを垣間見た雄太はそう感じた。
「よっしゃ! 大和、しっかりいけよ!!」
 バッテリーが続投を決めたのだ。雄太は、マウンドで大和が孤立しないように、声を張り上げた。その声に続くように、二塁手の吉川と三塁手の若狭も、“こっちに打たせろ”とばかりに声を出し、大和を鼓舞する。
 俄かに活気づいたグラウンド内の中央に立つ大和は、一塁走者に視線での牽制を何度か挟んでから、桜子が構えたミット目掛けて直球を放った。


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