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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-162

「バッターラップ!」
「あっ、と……」
 物思いに耽っていた大和を現実に引き戻す主審の催促。不意に隣を見ると、桜子の陽気な笑顔が自分を待っていた。
「どうしたの?」
「あ、いや……」
 暖かいものをたくさんくれたこの少女との触れあいだけは、決して手放したくない。同じ悔いを、二度と味わうことはしたくないと大和は思う。
「………」
「あ、あの……大和、くん……?」
 真摯な眼差しに見つめられた桜子は、急に胸が高鳴ってきた。なんというか、そのままキスでもしてしまいそうな空気が、二人の間に漂っている。
「早くしなさい!」
「あ、す、すいません!」
 なかなか打席に入ろうとしない大和に業を煮やした主審の、鋭い声が飛んだ。甘い空気は霧散して、あたふたと大和が打席に脚を運ぼうとする。
「う、うわっ!」
 よほどに慌てたのか、なんでもないところで躓いて、大和はよろけてしまった。
 珍しくも滑稽な大和の様子に、高鳴りを続けていた桜子は不意に可笑しさが込み上げてきて、その頬が緩んでいた。それは他の部員たちも同様である。
「Mm……?」
 一方で、大和が脚をもたつかせた様子を見ていたエレナは、それまでの喜色を少しだけ翳らせ、何かを考え込むようにその口元に指を添えていた。



 6回の裏に3点を加えた双葉大学は、6−0と相手を突き放しにかかった。ちなみにその3点の内訳は、3番打者である雄太のソロ本塁打と、5番打者である桜子の2点本塁打である。4番の大和は、相変わらず勝負を避けられたが、それを囲むクリーンアップ二人の豪快な打撃は、その敬遠策をものともしない破壊力を持っていた。
「よっしゃ、終盤だぜ。大和、頼むぞ!」
「はい!」
 追加点を奪い、勢いに乗る双葉大ナイン。そんなメンバーたちを見送りながら、相変わらずエレナの表情にはかすかな渋みがあった。
 彼女の視線は、マウンド上の大和に注がれている。
「プレイ!」
 そんな視線を知る素振りもなく、主審の声に導かれるように、大和は投球を始めた。アウトコースに構えた桜子のミットに、それは吸い込まれる。
「?」
 しかし、それを捕球した途端、マスクの下で桜子は、エレナの表情に混ざっているものと同じ顔色になった。
「………」
 ボールを大和に投げ返してから、座って構えを取る。二球目も彼女は、外角低めを要求した。
 サインに頷き、振りかぶる大和。流れるようなモーションで振られた腕から発せられたストレートが、桜子のミットに向かって伸びていく。
「!」

 キィン!

「あっ……」
 相手打者のスイングが、そのボールを強く叩いた。外角のコースへしっかり投じたにもかかわらず、相手に難なく引っ張られた打球は大きな弧を描いて、緑色のネットを越える。
 その打球を確認した三塁塁審が腕をぐるりと回転させ、本塁打であることをジェスチャーで告げた。防戦一方だった國文館大学は、まずは1点を返したことになる。
「………」
 わずか1点に過ぎない。しかし、一塁手の雄太と遊撃手の岡崎は、ともに等しくかすかな危機感を抱いた。これまでの余裕を全て放り出して、注意深く大和を見守る。
 大和は気持ちを切り替えるように、滑り止めを丹念に塗りこめていた。そして、心配そうにこちらの様子を窺っている桜子に対して“問題ない”という仕種と笑顔を見せ、ひとつ大きな息を吐くと、引締めた表情でプレートを踏みしめた。


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