投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 388 『STRIKE!!』 390 『STRIKE!!』の最後へ

『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-110

(………)
 初めて目の当たりにするその気迫に、桜子も呑まれそうになる。しかしややあって彼女は、すぐにそれを自らの気合を高めることで駆逐した。その辺りは、世界で戦ってきた経験が活きている。
 初球は、インコースに来た。

 ブン!

「ストライク!」
 栄輔の腕が高々と上がる。晶は、空振りを奪っておきながらも、マウンドまで届く風を巻き起こした桜子のスイングにかすかに戦慄した。
(相変わらずね)
 腕だけで振り回したスイングにも関わらず、それだけの爆発力を有しているのは、彼女が相当な腕力の持ち主だからだ。女性的な柔らかさとふくよかさを失わずにそれだけの力を有しているということは、その筋組織のひとつひとつが常人よりも強靭かつ柔軟なのだろう。
(これでまともなスイングをされたら……)
 背筋が寒くなる。二球目に投じた、勢いを抑えたチェンジアップを無様にも空振りした様子を見ながら、晶はそう思った。
 今の桜子は、例えばその力が“10”あるとすれば、おそらくは半分以上も生かしていないだろう。膝と腰の使い方が、いかにも悪い。安定しない重心のためにバットコントロールは乱れやすく、スイングの力も分散している。
「ストライク! バッターアウト!!」
 だから、緩急をつけた晶の投球の前には、赤子同然に捻られた。草野球での彼女の活躍は、相手がストレートしか投げなかったという点にもある。桜子は、“緩急”という初めてあいまみえた存在に敗北したのである。それはかつて大和が予想したことでもあった。
 幾分、肩を落としながらベンチに下がってきた桜子に対し、あくまでも優しく奮起をうながしてくる新監督のエレナ。
(素質はあるのです)
 日本人離れしたその筋力は彼女も知っている。その筋力を野球に適したものに変化させれば、彼女はおそらく双葉大学の主砲として目覚しい活躍をするだろう。そしてそれは、思うほど難事ではない。なぜなら、桜子は公言している通り心から野球が好きだからだ。
(スキこそモノのハジメなのですから)
 それは凄まじい吸収力で技術を飲み込んでいくはずだ。その様子が想像できたエレナは、苦戦をしている状況にも関わらず、頬が緩んだ。
 1−0のまま、試合は進む。
 さすがにエスペランスの少年たちは、雄太のカーブには中々慣れることが出来ず凡退ばかりではあったが、その守備力は特筆すべきものがあり、安打性の打球もゴロに代えてしまうので、双葉大も得点が取れなかった。
「よく守るわ」
 思わず品子は呟いていた。
 彼らは、その守備位置を微妙に変える。投手の投げるコースに反応し、ゴロが飛んでくる空間を先読みした位置取りをするのだ。とても少年野球のチームとは思えない高度な守備の連携を、難無くこなしている。
「さすがは、アキラです」
 エレナの言う通り、その守備力は晶の指導によるものが大きい。
 彼女のチーム作りの基本は、自分自身が投手であったことも影響しているのだろうが、守りを中心としたものだ。守備力を特化させることで、非力な打撃陣のカバーをしようとしているのだろう。1点を取らなければ、試合に勝つことは出来ないが、1点を与えなければ負けることもない。
 実のところ、晶の指導には後ろ盾がある。それは、中学校の教師を務め、野球部の監督もしている彼の夫である。監督を引き受けるに際して色々と助言をもらい、それを自分の中で消化した上で、晶はこのチームに植えつけたのだ。
(守備のいいチームと戦うのは辛いよ)
 甲子園でも活躍したことがあり、選手としても野球の経験が豊富な夫はそう言っていた。破壊力のある打線も怖いが、それ以上の重圧を守備の上手いチームは与えてくると…。


『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 388 『STRIKE!!』 390 『STRIKE!!』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前