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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-111

「なんであれが、ヒットにならねえんだ……」
 その重圧を、双葉大も感じていた。なにしろ、ヒットかと思う当りでさえ、彼らは簡単にアウトにしてしまうのだ。小学生と大学生とでは、当然だが体格も腕力も違う。それにも関わらず、ほとんど互角以上の戦いになっていることに、双葉大の面々は焦りを覚えていた。
 コントロールのいい晶の投球の前に、凡打の山を築く。失投や甘い球は、いっさいない。その全てが、外角と内角を、しかも針の穴を通すようにギリギリのところを貫いてくるのだ。スピードを抑えていても、コースを完璧に投げ分けられているのだから双葉大は快音を放てない。
 だが、彼だけは違った。草薙大和である。
(彼は別格ね)
 双葉大の中にあって、その実力が抜きん出ているのは2番(大和)、3番(岡崎)、4番(雄太)の三人だと晶は感じていた。その中でもこの2番打者は、特に格が違う。
「………」
 自分が率いている少年たちが少し大人びた童顔も愛らしい彼だが、バットを構えた瞬間にその体から放たれてくる威圧感にはさしもの晶も寒くなってくる。まるで蛇ににらまれた蛙のように竦んでしまいそうになるのだ。
(本気で投げないと打たれる)
 晶はそう思った。しかし、それではキャッチャーが捕れない。
 珍しくも逡巡の中にあった晶の投じた第1球は、それ故にわずかに集中力を欠いていた。

 キィン!

「!」
 コースも甘いところに入ったそのストレートを、大和は迷いなく打ち払っていた。第1打席のときよりも痛烈に豪快に空を切り裂く打球が高々と上がり、それは林の峰さえも軽々と越えて、軟式ボールが落下した時の音を発することもなく消え去った。
「………」
「………」
 今度は、唖然とする双葉大とエスペランスの面々。膠着した試合の中で、彼だけがめまぐるしく動いている。
「ナ、ナイスだ」
 普段は冷静な岡崎も、その打球の凄まじさに我を忘れ…
「………」
 雄太や品子は、言葉そのものを忘れていた。
「はぁ……」
 感嘆の息を洩らしたのは、桜子だ。まるで恍惚としたように、涼しい顔でベンチに戻ってきた大和を迎える。
「ど、どうしたの?」
 その視線が、まるで熱に茹ったかのような艶かしさを持っていたので、思わず大和は狼狽した。
「すごいなぁ……」
 桜子は、大和の風を切るようなスイングと、鮮やかほどに弧を描いて消え去った打球に完全に魅せられていたのだ。草野球の時もそうだったが、彼の実力は図抜けている。
 気がつけば、ベンチの視線が全て自分に寄りかかっていた。それは羨望と畏怖とを多分に含んだものである。
『こんなにすげえヤツが、どうしてウチに?』
 端的に言えば、そういう思いを誰もが抱いていたということだ。
「ゲームセット!」
 5回というのはすぐに終わる。試合は結局、大和の2発で得点した双葉大が2−0で勝利した。
(勝ったけどよ……)
 とりあえず結果としては面目を保ったが、エスペランスの少年たちは勝ちに等しい善戦をしたといって過言ではないだろう。逆にいえば、双葉大の面々は全く勝った気がしなかった。自分たちの無力さを、彼らは痛感している。
「もうしばらく時間はありますので、合同練習に切り替えます」
 エレナの言葉に従うように、試合を模した練習にしばらく時を費やした。
 少年たちを交えた練習は、日暮れが近づいたので終了した。新しい監督がチームに入り、その日にいきなり練習試合が入ったことには驚かされたが、それでも充実した時間になったと雄太は思う。やはり、指導者は必要なものだと、彼は思い知った。


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