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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-68

「………」
「バッターラップ!」
 審判の声に、長見は打席に戻る。だが、脳内の整理はついていないままだ。
 狙い玉を絞れないまま、相手に投げ込まれたボールは、アウトコースを貫いていた。
(やべ)
「ボール!」
 審判のジャッジに長見は安堵する。正直、やられたと思ったが、まだツキはあるらしい。
 大きく息をついて構える。なんとなく、足元が宙に浮いている気がして、落ち着かない。
(くそ…)
 グリップを持つ手に力がこもっているのがわかる。わかっているのに、力を抜くことができない。まるで自分の身体ではないものが、バットに繋がっているようだ。
 今井が球を放る。投げたコースはアウトコース。長見は、振りにかかった。
(げっ)
 それはブレーキがかかっている。そして、長見のバットから逃げていくように軌道を変えていく。ドロップだ。
 長見は慌ててバットを止めた。ボールはそのまま津幡のミットに収まる。二人が同時に、審判の方を向いた。
「ボール!!」
 ほ、という空気が城二大のベンチを流れる。それは長見も同様だ。
(決めはシュートかな)
 長見とて長い間、野球に携わってきた身だ。高校野球、プロ野球、果ては大学野球と、およそ野球と名のつく試合を数多く観戦してきた。その中で、配球というものに対する読みも知らず備わってきている。
 おそらくあのドロップも決めにきたものだったのだろう。仕切り直しの決め球に、同じ球を繰り返すよりも、自信のあるシュートを投げた方が打ち取る確率は高い、と、この巧妙なバッテリーは考えるはずだ。
(ここで、なにもできねえで、終わりってのは…)
 とてもイヤだ。なぜなら、流した汗はこれまでのものと比べ物にならない。
 自分は、必要以上に頑張ることは格好悪いと思っていたし、実際、この城二大に入るまではいい加減に野球をしてきた。
 だが、汗を流してみてわかったことだが、それによって上達していく自分というものを知れば知るほど、頑張ることが気持ちいいことだとも気づいた。
 だから、
(それを、結果に出したい)
 と、切に思うのだ。
 タイムを取ってから長見は、滑り止めでグリップに染みた汗を丹念に拭った後、メットのひさしを二度叩いた。
「!」
 城二大のベンチに、緊張が走る。
 すかさず玲子が右手を胸に当てて、その意を伝えた。“思うとおりにやりなさい”と。
「いいんですか?」
 直樹の言葉には、少し動揺がある。
「彼は、自分の脚に賭けるつもりなのよ」
 玲子とて内心は穏やかではない。だが、長見のスイングと変化球との差を見れば、そのほうがバットに当たる確率も高いだろうし、なにより彼の自主的な意志を尊重したい。
「エイスケ…」
(栄輔…)
 エレナも晶も、ことのほかゆっくりと打席に入る長見を心配そうに見つめる。
「プレイ!」
 審判の手が挙がった。長見はぐ、とバットを構えた。
 今井が投球モーションに入る。ざ、と足があがって、長見への投球を始めた。
 その頃合を見計らって、晶がスタートを切った。
「!?」
 虚をつかれた今井が投げたボールは、真ん中に。だが、途中でぐんぐんインコースへと向かってくる。
 長見は、す、とバットを真横にした。
「バント!?」
 二死なのに、と思うより先に、こ、とバットが何かを弾く音が聞こえた。白球が、一塁線を転がっていく。


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