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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-67

「わかった」
 だけどそれは、心強い。
 とにかく晶は、四球でも死球でも構わないから、塁にでることを第一に考えて打席に入る。一点差だ。塁を埋めれば、何が起こるかわからない。
「ストライク!」
 だから、初球の難しい球は見送った。晶が目指すものは、ただひとつ。
 それは、好球必打。
(きた!)
 インハイ真ん中より。晶の腰が、回転する。上手く腕をたたんで、打ち上げないように注意し、胸元の球を思い切り引っ張った。

 キン!

 晶のスイングが捕らえたボールは、一塁手である管弦楽とベースの間に飛んだ。慌てたようにグラブを出した管弦楽をあざ笑うかのように、その横を抜けてゆく。
 ファウルラインのギリギリで跳ねたので、ジャッジの難しいところだったろうが、審判の手は迷うことなく水平にふられていた。
「フェアだ!」
「長打だ!」
 ボールはファウルゾーンを転々としている。既に一塁を廻っていた晶は、二塁ベースが近づいてもそのスピードを緩めることはしなかった。
「三塁まで、行くってか!?」
 ウェイティングサークルで控える長見は思わず立ち上がっていた。
(間に合うか!?)
 晶の脚は遅くはない。しかし、微妙なところだ。なにしろ既に、相手の左翼手がボールに追いついて、これを投げ返そうとしている。それに、9回を投げきった晶の全力疾走が、果たして常時のスピードを保っているかどうか。
 晶は、頭から滑り込んだ。その背をボールが追いかける。三塁手が捕球の後、すかさず晶の腕に軽くタッチしていた。
「………」
 かすかに舞う砂埃。そして、沈黙。誰かが飲んだ息の音さえ、聞こえてきそうなほどの。
「セーフ!!」
 ど、と城二大のベンチは沸いた。
「っしゃ! いけや長見!!」
 赤木が吼える。その激励を背に、長見は静かに打席に入った。
「木戸」
 直樹が亮に視線を送る。“なにか助言しなくていいのか”という意味をこめて。
 亮は首を振った。この状況で、下手な言葉はかえってプレッシャーとなるからだ。いま、ベンチワークの中でできることといえば、
「エイスケ! GOです!!」
 ベンチの最前列に身を乗り出して声をからすエレナのように、長見を信じて応援することだろう。
「長見! けっぱれ!」
「ころがしゃ、お前の足ならいけるぞ!」
 エレナに続くように、赤木が、そして他のメンバーたちが長見の背中に向かって声をかけていた。
「………」
 その声援を背に長見は構えを取る。エレナの指導のとおり、肩と腕の力を抜きコンパクトに。
(この打者にやられたのは初回の初球だけ)
 これは、津幡の思考だ。確かにヒットを打たれているが、ドロップとシュートを投げ始めてからは三振と野手の正面に飛んだ内野ゴロに打ち取っている。
 逆にいえば、その変化球に長見の目はついていけていないということ。
(多分、変化球でくる)
 長見もそのことを自覚している。だったら、それを狙えばいい。
「ストライク!」
 …あとは、この打席でどこまで慣れることができるか、だ。インコースに抉ってくるようなシュートに、空振りをしてからそう思う長見であった。
「ファール!!」
 2球続けられたシュートに対して、長見のバットはかろうじてその根っこでボールを捕まえた。とはいえ、真後ろに飛ぶファウルチップ。あてたというより、あたったと言う方が正しいだろう。
(追い込まれちまった)
 長見は打席を外して、軽く息を吐く。自分の悪い癖のひとつに、カウントが不利になると力んでしまって、ポップフライを打ち上げてしまうというものがある。そうなると、自分の俊足を生かせない。


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