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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-61

「やられた」
「シュートですか?」
「ああ。かなりキレがいい、気をつけろ」
「はい、ありがとうございます」
 亮は滑り止めを丹念に塗り、そのグリップの滑り具合を確かめてから打席に向かった。
「亮、しっかり!!」
「キドさん、FIGHTです!!」
 背中に晶とエレナの声援を受けて。
「木戸のヤツ、もてとるのぉ……イ、イテッ」
 そんな様子を見て、またも試合から脱線しかけた赤木に、原田は忘れず拳骨を見舞っていた。
「よろしく」
 亮は、相手捕手が打席に立ったときにそうしたように、自分も一礼をして右打席に入った。腰を引き絞り、手首を締めて、構えに入る。そして、神経を研ぎ澄まし、相手投手の一挙手一投足に集中する。
 ぴりぴりするような殺気にも似た気が、亮の全身から放たれた。
(………)
 初球。インコースに来た。そのボールは途中から軌道を変え、亮の胸元を抉るようにして相手のミットに吸い込まれてゆく。亮は腰を引いて、それを見逃す。
「ボール!!」
 いきなりのシュートだった。左打者には逃げていく球が、右打者に対しては向かってくる球に変貌する。内角のストライクでも、下手に踏み込めば当たってしまうぐらいにキレはいい。
 二球目、アウトコースのストレート。インコースへの球も念頭に入れていた亮は初動が遅れて、これは見送ることにした。ベースを通過したから、審判は迷わずストライクを宣告する。
 三球目は、インコース。再びシュート。亮はバットを振ったが、根元にかするだけのファウルチップだった。
 2−1のカウント。投手に有利な状況である。おそらく相手はシュートに相当の自信を持っている。決め球はそれだろう。それも、ボール球で。
 予測は当たった。しかし、それでも彼は振りにいった。

 キンッ!

「いった!!」
 思いのほか爽快な音と共に軟式ボールが高々と舞い上がる。球の上がり方、角度は申し分なし。
 しかし、体を開いて打ったその球は、ポールの遥か左側を通過していく。
「ファウル!」
 はっきりそれとわかる打球だったので、亮は打席から離れてはいなかった。
 相手投手を見てみると、すこし動揺が見て取れる。ロージンバックを忙しげにはたき、気を落ち着かせようとしているようだ。
(決め球のシュート。しかも、ボール球に手を出させて、あんだけの当りをされたんだからな)
 二塁上の長見は、体を開きながらも体勢を崩さず、鋭いスイングでシュートを打ち放った亮の打棒に、度肝を抜かれたのだろうと思った。そして、それは外れていない。
「やりますね、いまの決めにいったのに」
 一方で、捕手の津幡は、亮に語りかけるほどの余裕があった。本塁打性のファウルを打たれたことなど、まるで意に介さないように改めて構えを取る。
「………」
 亮は何も耳に入ってはいない。次の球に関することに全てを集中していた。
 おそらく次の球もインコースのシュートが予測できる。亮は8割、その考えで球を待つことにした。そう…全てではなく8割で。根拠のない、動物的なカンがひとつの考えを亮に与えたからだ。
 横手投げから、5球目が繰り出された。そのコースは外角。
「!」
 少し初動は遅れた。しかし、予測外ではない。フルスイングとはいかないが、充分に強い打球を放てる体勢ではあった。
 しかし、思ったよりボールがこない。僅かにブレーキがかかっているその球は、今度は緩やかにさらに外角に逃げていく。この球の軌道は、明らかにストレートのものではない。
 亮の身体が、ぐらりと揺れた。タイミングを外されたのだ。既にスイングが始まっているから、途中の軌道修正はかなり難しい。


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