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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-60

「……長見君は、いい1番打者だよ」
 亮は、賭け試合の時からは想像もつかない彼の変貌ぶりに、目を細めていた。
 初回の攻撃で1番が出塁すると言うことは、それだけでチャンスの到来になる。しかも初球を叩いてヒットにしたというのは大きい。何しろ、相手の出鼻を挫く最大の効果があるからだ。
 玲子が、打席を外してベンチを見ていた斉木に、自らの右頬を触って何かサインを出した。状況を考えれば、やることはひとつ。
「送り、でっか」
「ここはセオリーどおりに、ね」
 赤木の言葉にウィンクで返す玲子。その仕草に赤木は、キャプテンの想い人であるにも関わらず少しばかり邪まな考えがよぎって、つい彼女の横顔に見惚れてしまう。
「イテッ!」
 それを見透かされたように、その隣にいた原田に横腹を肘でどつかれていた。
「わ、わかっとるがな」
 試合に集中しろというのだろう。
「お」
 赤木がグラウンドに目を戻したとき、斉木の送りバントが見事に決まって、長見が二塁ベースに到達していた。
「おっしゃ! ええで、ええで!!」
 ムードメーカーとなっている赤木は、その大きな声で好機を歌った。
 得点圏に走者を置き、クリーンアップを迎える。試合の主導権を握るには、先制点が必要だ。特に相手が強豪ならば尚更のこと。そういう意味では、絶好の形を作り上げたことになる。
 直樹が左打席に向かった。相手が横手投げの場合、斜角の関係上、左バッターは有利になる。特にバットコントロールに長けた直樹にとって、コースを突いて相手を打ち取るタイプの投手は得意とするところである。
 だから、ベンチを見た直樹に対して、玲子は何も指示を出さない。“あなたにまかせます”と視線に言葉を載せて、それを答えとした。
 直樹は頷いて打席に入り、そして構えた。
 二塁に走者を置きながら、投手の今井は落ち着いている。塁上の長見を牽制しながら、初球をアウトコースに投げ込んだ。
「ストライク!」
 直樹はそれを見送り、相手の配球を考えてみる。
 ランナーが二塁にいて、左打者。ここは、三遊間に打球を運ばせて長見を進塁させないようにするところだから、アウトコース主体で攻めてくるだろう。現に、初球はそこだった。
 二球目、やはりアウトコース。直樹はバットを振る。打球は、三塁ラインの遥か左を転がるファウル。少し、ボール球だったらしい。
 三球目、高めに浮いたボール球。これは振りを誘う“つり球”だ。もちろん、予測のついていた直樹は悠々とこれを見送る。
 四球目はアウトコースに来たが、外れている。見逃したところやはりボール。
 2ストライク2ボールの、並行カウントという状況になった。
(勝負はここだ)
 相手もフルカウントにしたくはないだろう。おそらく狙い目は、この球。
(………)
 相手投手がセットポジションから球を繰り出してきた。それは、アウトコース。
「きた!」
 直樹は、自分の望む球が来たので躊躇いもなくスイングを始めた。ボールのやってくる軌道を誤らずに測り、バットを振る。間違いなく、球を捕らえることができると、初動の時には思っていた。
 それが、ストレートだったならば…。
「!?」
 相手のボールが、直樹のバットを避けるように外角に逃げていく。直前に近いその変化に、いくらバットコントロールの上手い直樹のスイングもついていけず、虚しく空を切っていた。
「ストライク! バッターアウト!!」
「……っ」
 直樹は舌打ちをする。考えてみれば同じ球を二球続けるほど、敵も甘くはないだろう。
 左打者に対して、どんどん外角に逃げていく球。“シュート”という変化球だ。横手投げであるため、角度とキレもいいその球は、きっと相手投手の得意とする球種なのだろう。


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