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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-62

(よし、はまった!)
 捕手の津幡は、体制を崩した亮のスイングに、この打席は打ち取ったと思った。これならば空振りか、当たっても内野フライだろう。
(………?)
 しかし、亮のバットはボールについていく。しかも、スイングの鋭さはさして失われてはいないまま。
 確かに亮の上半身は体勢を崩していた。しかし、バットスイングの要である下半身は、まるで地面に根を下ろした大木のように、しっかりと固定されていたのである。

 キンッ…

 そのスイングは、ボールをしっかりと捕らえた。さすがに磐石のスイングではなかったから、亮の打球にしては当りが鈍い。しかし、飛んだあたりが面白い。二塁手と右翼手の、ちょうど中間に舞い上がっている。
「ツーアウトだからな!」
 長見は走る。その俊足は、打球が落ちない先に三塁を駆け巡る。亮もまた、一塁を目指して駆けていた。
 櫻陽大の二塁手と、右翼手がこの打球を必死に追う。
 打球は、その間に落ちた。
 右翼手がワンバウンドで処理して、ホームを伺う。あわよくば、捕殺(ホーム上でランナーをアウトにすること)を狙ったのだが、捕手の津幡が大きく腕で×を描き、間に合わないことを告げていた。
 なにしろ、ボールがバウンドした時点で長見はホームに還ってきていたのだから。
「よっしゃあ!!」
 赤木がほえる。ベンチが盛り上がる。強豪相手の先制点。図ったような、好い展開の滑り出しに、チームの士気も高まると言うものだ。
「エイスケ、NICE RUNです!」
 好走塁の長見をエレナが拍手で迎えた。
 …彼女はいつの間にか彼のことを名前で呼ぶようになっている。長見はようやく慣れてきたその照れくささを隠すように、強めにエレナと片手のハイタッチを交わした。
「わたしも、燃えてきましたー!!」
 いつにも増した張り切りようで、エレナはバットを大きく掲げ、そのダイナマイトバストを張って打席に向かった。



「3点は、ハンデと考えちゃいかんぞ」
 白髪に皺の目立つ顔。その柔和な顔つきと言葉づかいにはしかし、ある種の鋭さを湛えていた。
 櫻陽大学軟式野球部の監督・日内十蔵その人である。長くアマチュア球界の指導者として実績を重ねてきた老将であり、隼リーグ開設の立役者の一人だ。
 その老監督が、スコアボードをしげしげと見ている。そこには、初回の攻防の結果が記されており、櫻陽大学が0と表記してあるのに対し、城二大の方には3という数字が入っていた。つまり、城二大が3点を奪ったと言うことである。
 1点目は、亮のテキサスヒット(いわゆるポテンヒット)。そして、その直後に、エレナの2点本塁打が飛び出した。城二大が昨季の最下位チームとは違うと言う話は聞いていたが、想像を上回る奇襲を受けたものである。
「す、すみません」
 先制を許してしまった投手の今井が、立場がないように俯いている。日内は、からからと笑ってそんな今井の態度を軽くたしなめた。
「お前さんは、あの1番の初球を除けば、いつもどおりの投球をしとるよ。のう、薫」
 そういって、捕手の津幡に話を振る。
「ええ。まさかドロップを当てられるとは、思いませんでした」
 ドロップとは、亮に投げた右打者から外角に沈んで逃げていくブレーキの利いた変化球のことである。
「あの4番打者。ええケツをしとるわい」
 誤解がないように言っておくが、日内は亮の安定した下半身について言及したのだ。孫が何人もいる身だから、決して男色家ではない。


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