投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 25 『STRIKE!!』 27 『STRIKE!!』の最後へ

『STRIKE!!』(全9話)-26

「楽しかった!!」
 挨拶を終え、ベンチに戻った晶の嬉々たる声に、メンバーたちも笑い合う。試合中、終始仏頂面だった長見も、少しだけ頬が緩んでいる。
「野球って、こんなに楽しかったんだね!」
 賭け野球のときの勝利とは、比べようもない、とういうか、比べる基準が天地以上の差もある昂揚感に、晶は酔いしれていた。
「よっしゃ、祝勝会や! 場はもう抑えてあるで!!」
「また、蓬莱亭か?」
「そうや! 店の売上に、貢献してもらうで!!」
「まあ、旨いからいいけど……」
 赤木のバイト先である蓬莱亭は、中華料理店だ。もっとも大衆食堂に近いものがあるので、値段はそんなに高くないし、なにより料理の味がいいので、なにかあるとは蓬莱亭によるのが城二大軟式野球部の慣習になっていた。
 じつは、そのおかげで、赤木のバイト料が跳ね上がっているというのは、部員たちの暗黙の了解である。
「店長がな、今日はフルコースで奮発してくれるらしいで!!」
 おおー、と歓声が上がる。いつもは、手ごろにお一人3000円コース飲み放題が定番だったが、同じ値段で5000円コースを振舞ってくれるという。これで、盛り上がるなというのが無理だ。一応は、体育会系ではあるのだから、やはりみなそれ相応に大食漢なのである。
「晶ちゃんのデビュー戦快勝と、ワイらの明るい前途を祝って、今日は豪快に行くでー!!」
 赤木は、試合が終わってからの方がテンションが高かった。



「あんまり、食わなかったな」
 ほとんど大食い大会と化した祝勝会も、そのために料理の減りが早すぎて早々と終わってしまい、いま、亮と晶はふたりで帰路についている。
「木戸こそ」
 3000円では、相当な赤字が出るくらいに、二人はあまり飲食をしなかった。その理由は訊かなくても、お互いわかっているのだが。
「…………」
 沈黙が続く。何か…何か、言ってあげたいのに、亮は言葉を見つけられない。
「あの、な……」
 それでも、無理に亮は口を開いた。晶が、何かを期待するようなまなざしを彼にむける。
「今日は、ナイスピッチだった。結構いけるとは思ってたけど、まさかパーフェクトとはな……すごいよ、うん。やっぱ、さすが、近藤だ」
「は、はは……ありがと」
 もうちょっと違う言葉を期待していた晶は、やっぱり、野球のことしかでない亮にちょっとだけやきもきした。
 二人の足は、公園の傍にきていた。何気なく、その中に踏み入り、人気のない場所を歩く。
 時間は、もうすぐ日をまたごうとしていた。
(………)
 ひとつ、ため息をつくと、晶は覚悟を決めたようにきっ、と亮を見る。
「約束……ってわけじゃないけど、あたしの言葉、覚えてる?」
「………」
 ぼ、と亮の顔に灯がともる。それが、答である。
 晶は、そっと、亮の手を自分の手に重ねた。
「あたしね…」
 晶は、豆だらけのごつごつとしたその手に、亮は、繊細で柔らかいその手に、互いに胸の高鳴りが増していく。
「今日、凄く楽しかった。本当に、楽しかった。あんなに楽しかったの、久しぶり」
「近藤……」
「野球がね、やっぱり好きだなーって、わかった。でもね、もうひとつ理由はあるんだよ」
 ぎゅ、とつないだ手に力がこもる。
「アンタの構えたところにね、思い切り投げるのが一番楽しかった。気づいてないかも知れなけど、いい球放ると、凄く嬉しそうな顔してボール返してくれるんだよ。だからあたし、その顔が見たくて、懸命に投げたんだ」
「………」
「それでね、一度だけ、アンタ、あたしのこと名前で呼んでくれた」
「?」
「気づいてないよね。でもね、それ、すっごく嬉しかったんだから…」
 とん、と亮の胸板へ額を預ける晶。自然、亮は開いた手でその肩を優しく支える。


『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 25 『STRIKE!!』 27 『STRIKE!!』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前