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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-25

「!!」
 ふわりと舞う、長い黒髪。見れば、晶がキャップを取って、髪を空気に泳がせていたところだった。
「………」
 今度はそれに見惚れてしまう。あの、甲子園の風を思い出す。
「こら、色男」
 後頭部をバットのグリップで小突かれた。見ると、赤木が亮のバットを差し出していた。
「次はお前やろ?」
「わ、す、すみません赤木さん」
 慌ててプロテクターに手をかける。赤木は苦笑しながら、レガースの着脱を手伝った。
「まだ試合は、終わってないで」
「そうですね、はい」
 亮は、さっき自分に言い聞かせたことを改めて指摘され、苦笑いを浮かべた。
「気合一発、ホームランでも打ってこいや!!」
 そうして、赤木には背中をはたかれて打席に送られた。ウェイティングサークルで既に待っていた直樹にも、
「油断は禁物だからな」
 と、釘をさされてしまった。
(こりゃ、塁に出ないと冷やかされるな……)
 別の意味で、緊張した打席になってしまったが、バットを構え相手に対峙した瞬間、亮の体からは強烈な殺気が漂い始めた。


 マウンドには、呆然とした投手。そして、塁上をゆっくり回る亮。
 彼が捕らえた初球は、ピンポン玉のように球場の外へ弾かれていた。
「いや、確かに打てとは言うたが………」
 まさか、本当にホームランとは。それも場外弾。赤木は、野球センスに溢れた後輩を目で追いかける。
「すごいわ、木戸! 場外なんて!!」
 晶は、喜色満面で出迎えてくれた。この顔に、打たせてもらったホームランかも知れないと、殊勝なことを思ってみる。
「ヒットはあたしのほうが多いけど……インパクトあるよね、あんたの打球って」
 晶はこの試合、2本の二塁打を放っている。亮は慎重に選んだ四球が2つあるばかりで、実はこの試合初めてのヒットだった。しかし、おそらく、この球場にいる誰しもが、晶のヒットよりも、亮の打球をまざまざと網膜に焼き付けただろう。
(でも、ホントにすごいね)
 なにしろ、前の試合ではこの男に4打席連続で本塁打を打たれたのだから。その実力を、直に体験しているから、尚更にそう思うのだ。
(どうして、硬式じゃないんだろう)
 硬式野球で活躍すれば、プロの話だって夢じゃないほどの実力を、彼は持っている。それなのに……。
「よし、ラスト2イニングだ! 行こうか、晶!」
(あ)
 今、亮が名前で呼んだ。それは、試合に集中している彼の中で、無意識に出てきたことだったのかもしれない。
「うん!」
 しかし、それがとても嬉しかった。



「ストライク! バッターアウト!! ゲームセット!!!」
 わっ、と城二大のナインがマウンドの晶に駆け寄る。大記録が生まれたとはいえ、露骨に抱きついたりしないのは、相手が女の子だからだ。
 ヒットを一本も打たれず、ひとりのランナーも許さない。
 そう。入れ替え戦とはいえ、記録に残る公式試合で、晶は完全試合を達成したのだ。奪三振23という、これまた強烈な数字も加えて。
「初陣としては、随分派手ね」
 玲子は拍手を送りながら、スコアボードを見る。8−0の快勝。2週間前の野球部の状態から、こんなに痛快な結果を誰が予想できるだろう。
「絵になるバッテリーよねぇ」
 晶の頭を仕切りにポンポンやっている亮を見て、そう思う。ふたりの笑顔は無邪気さそのもので、ここにカメラを持っていないのが惜しいくらいだ。
 とにかく、これで城二大は来季も一部リーグに残留できることになった。考えてみれば、ここからが本当のスタートライン。しかし、前途は揚々たるものに見えた。


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