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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-234

「スーパークイック……」
 二ノ宮の呟きに、千里は頷きで答えを返した。
「塁上に走者を出すと乱れがちになるというデータは、もう使えないわね」
 ため息を交えて、千里は続ける。
「しかし、見事なもんだったな」
 鈴木は脚もそれなりに速い。その鈴木が、余裕を持って封殺されてしまうほどに、彼女のクイックモーションは素早いものだということだ。
 クイックモーションは、塁上に走者を背負ったときその走者に盗塁を許さないため、投球のフォームをとにかく早くするために使用される。そのスピードが速ければ、相手走者への対応をより迅速にとることができるばかりか、バントなどで内野に転がった打球を二塁で封殺する可能性もグンと高まる。
 例えば、プロ野球リーグの名門球団・東京ガイアンズのセットアッパー(主戦中継ぎ投手)の前間投手は、そのクイックモーションが球界でもっとも素早く、それを指して“スーパークイック”と自ら命名している。長くガイアンズを応援してきた二ノ宮は、晶のクイックにそれを思い起こし、冒頭の呟きになったのだ。
「す、すまん……」
 鈴木が、肩を落としながらベンチへ戻ってきた。せっかく好機の足がかりを得られかけていたというのに、晶のモーションに幻惑されてスタートが遅れたことを、自覚しているからだ。
「ナイスヒットだった」
 もちろん、二ノ宮はそれを責めない。むしろ、近藤晶のストレートを上手く叩き、三遊間を抜いた打球を放ったことを、褒め称えた。
「ストライク! バッターアウト!」
 その間に、7番打者の林は成す術もなく三振に切ってとられた。
「セットポジションの課題も、修正されてるみたいだな」
「ええ」
 大きな振りかぶりで勢いをつけられる無走者での晶と、走者を背負ったがゆえに小さなモーションで投球を始めなければならないセットポジションの晶。そこにあった球威の違いが、どうやら是正されているらしい。
(亮め)
 マウンドから嬉々として駆け下り、互いに手を打ち鳴らすバッテリーの様子に微笑ましいものを感じながら、背筋にある種の冷たさを感じる二ノ宮であった。





 3回表の城二大は、初めて塁に走者を置いた。上島と長谷川はそれぞれ凡退したのであるが、1番の長見が三遊間の深いところに打球を転がし、その俊足を発揮して内野安打で出塁したのだ。球質の重さを既に理解している彼は、あの切れ味鋭いフォークボールが投じられる前にそのストレートを叩いた。はっきり言えば、初球を狙ったのである。その思い切りの良さは、四六時中一緒にいるうちに、エレナからいつのまにか伝播したものであろう。
 しかし、この回は無得点に終わった。次打者の斉木が、追い込まれた末にフォークボールを投じられ、三振に切ってとられたからだ。器用な打者である斉木も、まだ目が慣れていないそのフォークを見極めることができなかった。
 3回の裏の櫻陽大学は、下位打線から始まる。しかし、2順目になる1番・津幡の打席はこの回、既に用意されている。彼に痛打を許したことから失点した初戦の轍を、優勝がかかったこの試合で再び踏むわけには行かない。
 その気合を示すかのように、晶は先頭打者の8番・間島を、インコースを厳しく貫くストレートで三振に切ってとった。


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