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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-226

「パワーいった?」
「ああ来たよ。ビンビンにな」
 今日の晶は気合の乗りが違う。正直、握られた左手が痛い。
 ひょっとしたら気負いすぎているのかもしれないと、心配しかけた亮だったが、
「じゃ、行こう!」
 最後にバチリ、とハイタッチをかわしたとき、その顔には鮮やかなほど爽快な表情があった。決戦のマウンドに対する気後れや、気負いは感じられない。
(まったく、凄いヤツだよ)
 勝負を誰よりも楽しめる強さ。亮はそんなエースが心底頼もしい。だが亮は、実は彼自身こそが晶の強さを大きく担っているということに、気づいていない。

 あまりに強くはたかれて、ジンジンする左手を少し落ち着かせてからミットをはめ、マスクを被りなおして亮は定位置に戻る。
「よろしく」
 それを待っていたように、津幡がヘルメットのひさしを軽く摘みながら打席に入った。一度は対戦した相手だから、少し気心が知れているという雰囲気を持っている。
(………)
 だが、晶を凝視し構えを取った彼から発せられる気迫は、初戦の比ではなかった。
(初回から、全開ということか)
 亮はミットを構える。晶がその位置を確認し、頷く。
 プレートを踏みしめて、晶が振りかぶった。始動したモーションが、VTRのように淀みなく流れていき、高く上がった脚が地面を抉った瞬間、引き絞られた左腕の先から、白弾が飛び出した。
「!」
 スパン!!
「ストライク!」
 レベル1.5のストレートが、津幡の胸元を抉った。しかし、高低左右ともにストライクゾーンを霞めている。それを示すように、津幡はその球筋を追いかけるようにホームベースとマウンドの晶を交互に見やっていた。
「ナイスボールだ!」
 いつも以上の手応えが、亮のミットに響いている。たった一球だけではあるが、今日の晶が絶好調であることは充分にわかった。
「………」
 しかし、津幡の表情からは晶のストレートに対する畏怖は感じられない。むしろ、初戦で砕いた晶のストレートを、さらに丸裸にしてやろうという不気味な雰囲気を感じた。
(臆するなよ、亮)
 自分で言い聞かせる。相手のプレッシャーを、晶はマウンド上で必死に受け止めているはずだ。そしてそれは、自分を含める野手陣以上のものであるに違いない。
 相手に臆すること、それは、マウンドにいる晶を孤立させることになる。
「ストライク、ツー!!」
 だからこそ、もう一度、インコースを貫いてやった。
「っと……」
 まさか同じコースに同じ球威のストレートでくると思わなかったのか、津幡の目が少しだけ揺れた。
 ざ、と晶の脚が高く上がる。そして、三球目を投じた。
「ストライク!!! バッターアウト!」
 外角低めいっぱいのところに突き刺さったレベル2のストレート。津幡は振りにかかったものの振り遅れもいいところで、見事なまでに空振り三振に仕留められた。
「……すごいなぁ」
 感嘆を含むため息をひとつ残して、津幡は打席を去る。もちろん、次の打者である風間に耳打ちすることを忘れない。その辺りは、わずか三球で打ち取られたとはいえ、しっかりと1番の役割を果たしている。
 2番の風間が打席に入った。2番に座ってはいるが、並ならぬ長打力を持っていることは既に亮の頭に入っている。それを示すように、インコースの球はこれでもかというほど引っ張ってくる。
「ストライク!!! バッターアウト!!」
 だからこそ、逆に執拗なまでにインコースを攻めてやった。角度のある晶のストレートを、相手の膝元に集め、ファウルでカウントを稼いだ後、最後はボールになる吊玉で仕留めた。選球眼という意味では、津幡に劣る彼の弱点を突いたのである。
 二者連続三振。立ち上がりとしては万全であろう。その万全なものを、さらに確かなものにするためには、次の打者もしっかりと抑えなくてはならない。
『3番・センター・二ノ宮』
 球場職員のアナウンスが響く。それを聞き届けてから、二ノ宮が軽い屈伸をした後、左打席に入ってきた。その堂々たる物腰は、さすが、強豪チームを名実ともに牽引してきた者の強さである。


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