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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-225

(フォーク……)
 重い球、ということに意識を捉われすぎた。当然のようにストレートを狙っていたのだが、まさかそれが落ちるとは。
 もっとも、これが初対戦であるわけだから、敵の全てを知らないというのは致し方ないことではある。
「ストライク! ツー!!」
 相手には、フォークがある。それも、かなり落差のあるボール。しかも、ストレートのときと全く球威がかわらない。
 その意識が、微妙に亮の心理に働き、二球目のストレートを見逃してしまった。あまり厳しいコースではないところに来た球を、それでも亮は見送った。
「木戸、押されてないか?」
 それなりに野球勘をもつ長見にはある程度の“視線”が備わっている。勝負に関する、双方の勢いの差というものを感じることができるのだ。その“視線”が捉えたものは、マウンドの京子に対して気圧された感さえある打席内の亮だった。
 三球目。アウトコースのそれに、バットが出かけた。
「ボール!」
 しかし、途中でフォークだと見切った彼は、それを止めた。案の定、地面をバウンドしたことによって、ストライクゾーンを外れ、審判は当然のごとくボールを宣告した。
(これだけ落差があれば、落ち着いて見ればなんということは……)
 瞬間、亮に余裕が生まれかけた。しかし、
「ストライク! バッターアウト!!!」
「………」
 高めの甘いところから急転直下、低めを抉ってきたそれに、亮のバットは虚しく空を切っていた。驚いたことに、これだけの落差を、マウンド上の投手はコントロールしているのだ。
 相当、自信があるのだろう。それが落ちなければ、亮のスイングは確実にボールを場外まで飛ばしている。重いストレートに対応したスイングの風を切る音は、両ベンチに聞こえてくるほどだったのだから。
「チェンジ!」
 しかし、当たらなければそれは何の結果も伴わない。
「亮が……」
 手も足もでずに、三振を喫した。亮が三振をするだけでも珍しいというのに、相手に全く食い下がることもできなかったということが、晶にとっては衝撃であった。もちろん、他のメンバーにとっても。
(っ)
 さしもの亮も、この打席には完敗を悟る。しかし、ヘルメットを外し、ひとつ息をはくと、気持ちを入れ替えるように空を見た。
(楽しくなりそうだな)
 言葉にしたわけではないが、そう考えているあたり、亮も大した勝負師である。




 攻守かわって…。
 1回の裏、櫻楊大学の攻撃は一番の津幡。リーグでも高出塁率を誇り、選球眼もいい。
「相手は、最初から全力でくるぞ」
 マウンドに寄っている亮は、そんな津幡の素振りを見ながら言った。念入りにタイミングを測りながら、鋭い風切り音を放っている。小柄ではあるが、パワーも感じられるそのスイングに、改めて敵の強さを知るバッテリー。
「やられっぱなしじゃ、悔しいから。あたしもフルでいくよ」
 初戦では、この打者にヒットを打たれてからリズムを崩し、失点を許した。
 きり、と相手の素振りを凝視する晶。勝負に集中している彼女の顔を、亮は美しいと思う。
「亮」
 晶の言葉に、ミットを外して亮は左手をかざす。常に忘れない、試合前の儀式だ。
(おっ)
 その手のひらに、晶の細い指先が絡まって、しかし、華奢な概観からは想像もつかないほど強い力で握り締められた。


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