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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-227

「亮」
 顔をマウンドに向けたまま、二ノ宮が亮を呼んだ。亮は答えの代りに、視線を二ノ宮の横顔に当てる。その口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。
(?)
 次の言葉を待ったが、二ノ宮は何も言わなかった。勝負を前に、無粋なやり取りをやめたのであろうか。
 亮は、すぐに雑多な疑念を払いとばした。頭の中で、二ノ宮のデータをかき集め、リードに集中する。雑なリードでは、絶対にこの選手は抑えられない。
 ざ、と晶の足が上がった。流れるようなモーションから放たれたストレートが、アウトコースぎりぎりのところを掠めて亮のミットを激しく鳴らす。
「ストライク!」
 二ノ宮が、意外な顔つきをした。初戦のリードでは、右目にハンディを持つ二ノ宮の狭い視界ゆえに、苦手とする内角ばかりを突いてきたバッテリーだ。それがまさか、初球にアウトコースを攻めてくるとは。
(裏を斯いたか)
 内角を狙っていただけに、二ノ宮は手を出さなかった。もっとも、あれだけ精緻にコースを散らしたストレートに簡単に手を出せば、凡打は免れなかったであろうが。
 二球目。またしてもアウトコース。しかも、直球の威力はレベル1。
「!」
 当然、二ノ宮は振ってきた。鋭い腰の回転が生み出すエネルギーが、バットに集約されて晶のストレートに食らいつく。
 キン! と、小気味いい金属音を残して、軟球は弾き返された。
「ファール!!」
 しかしすぐさま審判の両手が大きく広げられた。はじめからファウルゾーンに飛んでいたそれは、速い球足でグラウンドを転がり、外野のフェンスまであっという間にたどり着いている。
 だが、ファウルはファウルだ。
「ボール球、だったか……」
 二ノ宮は呟いた。球の勢いが初球に比べてゆるかったのでつい手を出してしまったが、冷静に考えてみれば1個分はベースから外れていたように思う。
(わざと外角を続けて、しかしスピードとコースは変えておいたか)
 なかなか老獪なことをする、と思う。初球はインコースの予想を覆され、二球目はスピードの感覚を狂わされた。
「面白いな」
 絶対的な弱点を持つ自分のその場所を突かず、それでも追い込んできたバッテリー。初戦に感じた初々しさは微塵もなく、勝負慣れした空気を二人の間に感じ取る二ノ宮。
 三球目。迷うことはなく、二ノ宮はインコースを待つ。
「!」
「ストライク!!! バッターアウト!!!」
 その予想はあっていた。しかし、今度は球威がそれを上回っていた。アウトコースの球筋を焼き付けられたところに、レベル2のインコースを投じられたのでは、さしもの二ノ宮も手が出ない。
「チェンジ!」
 見逃しの三振に倒れた二ノ宮。この打席の完敗を悟る。
(そうこなくては、な……)
 初戦で相対したときよりも、遥かに手強くなっているバッテリーに畏怖を覚えながら、しかし、それをいかに砕いて見せるか、楽しみが増えたことに高揚してくるものを抑えられないでいた。





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