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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-221

「ちょっと力んだかもしれねえ」
「………」
 ただ、亮はその言葉には疑問を感じた。なぜなら、傍から見ていて彼のスイングは、全くいつもどおりのものだったからだ。肩に力が入った窮屈なものではなく、むしろ、重ねてきた素振りの賜物か、平凡なセカンドゴロに倒れたのが不思議なくらい鋭いスイングだった。
「木戸、どうした?」
 不意に黙ってしまった亮に、長見は怪訝な顔つきをする。1番打者としてじっくり相手を見ていくつもりが、たった2球で終わってしまったものだから少し後ろめたさがある。
 彼の沈黙に責められている気がして、なんとなく落ち着かない。もっとも亮は、長見を責めているつもりなどは全くない。自分の考えに、没頭していただけだ。
 そんな亮の思考を遮るように、ギッ、と鈍い音がした。
「おっ」
 二人は視線をグラウンドに戻す。
 しかし、斉木のスイングから弾かれたボールは、京子の目の前に力なく転がっていた。何の変哲もないピッチャーゴロだ。
「ツーアウトか」
 それを軽快な動きで一塁に投じられ、斉木はアウトに打ち取られた。
「………」
 斉木とて、晶の速球についていけるだけのスイングをできるようになっている。それが、相手を良く知らないとはいえ、あっさりと投手ゴロに打ち取られた。
「貫禄あるのう。本当に、控えやろか?」
 赤木の言うように、二死を奪ったマウンド上の投手は、なかなかに堂のいった趣である。優勝のかかった一戦で、しかも先発を預かるという重責にも負けず、その落ち着いたマウンド捌きには、彼女の度胸の良さが伺える。
「やるな……」
 亮は、次の打者を目で追った。もちろん、晶のことである。晶はそれを見越していたように、視線で彼を待っていた。
 果たして、ふたつの視線が交錯した。
(頼むぞ、晶)
 自分が3番に指名した打者としての晶に、亮は握りこぶしを見せその健闘を祈る。晶は軽いウィンクでそれに応えてくれた。
「……なんか、監督に似てきた」
「え?」
 本来ならば、打席に立っているはずの直樹。隣にいる恋人に似通ってきた晶の仕草に、思わずそんな呟きが漏れていた。



「相手のキャプテンは、どうしたんでしょうね?」
「脚を怪我しているみたい」
 今井の疑問に、千里はすぐに応えた。整列のとき、監督と共にベンチの前に立っていたのを確認していたからだ。松葉杖で身体を支えながら、チームを見守っている彼の姿を。
「重傷、と見ていいわね」
 リーグで1,2を争う高出塁率を誇る打者がいない。層の薄い城二大に、それを埋めるだけの存在があるのだろうか?
「威力、半減かな」
 と、今井が言いかけた時、
「そうかしら」
 二ノ宮曰く“千里ファイル”を覗き込みながら千里は言う。そこには、近藤晶の今リーグにおける打撃成績が詳細に記されていた。
「………」
 9番という打順がその数字を覆い隠してきたが、彼女の打撃は悪くはない。
「いいえ」
 それどころか、かなりいい。打率だけで換算するなら、実は城二大の中にあって、3番手にいるのだから。
 つまり、数字の上では亮とエレナに次ぐ功打者なのである。しかも、二塁打が圧倒的に多く、長打力もそれなりに備わっていると見ることができる。
(………そういや、俺も打たれてた)
 今井は、前期の試合に打たれた三塁打を思い出した。あの鋭いスイングと、俊敏なランニング。余裕のようなものが胸に沸いた彼は、すぐにそれを引っ込めた。
「相手が万全でないといって、油断をすれば足元をすくわれるわ」
「………」
 言葉がない。全くその通りだ。
(やれやれ、ワシの仕事がないわい)
 千里の言葉で益々締まったものになる櫻陽大のベンチ。例え試合に出ていないといっても、真剣な眼差しでグラウンドを見つめるその様に、日内は口元の緩みを抑えられなかった。





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