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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-220

「おい、長見」
「ん?」
 斉木がいつまで経っても動かない長見を心配して、声をかける。よくみれば既に投球練習は終わっており、審判が打席に入るように促しているではないか。
「あ、すまねえ」
「あがってるの?」
「まあ、そうかもしんねーな」
 とりあえずお茶を濁しておいた。
 晶や自分が、かつて賭け野球の世界にいたことは、敢えて話すことでもないので部員には喋っていない。マウンドに立っている投手のことをそれなりに知っているのなら話は別だが、ほとんど初対面に等しい今の状況では、むしろ余計なことは伏せておくべきだと思った。
 張り詰めたものは、些細な衝撃にも大きな破裂を起こすものだ。長見は、城二大の盛り上がりに水をさすようなことをしたくはなかった。それは、彼の大きな成長ともいえるだろう。
「じっくり見てくる」
 斉木にそう言うと長見は打席に立つ。
「プレイボール!!」
 審判の高らかな宣誓を受けて、マウンドの京子が大きく振りかぶった。
 長見は、エレナにうけた指導を違えることなく、両肩の力を抜いて、コンパクトな構えを維持して初球に備えた。それでも、幾分グリップを握る手に力が入っているのは、仕方のないところだ。
 京子の足が上がる。晶に似て、高く上がったそれは勢いよくマウンドの土に打ち付けられ、その勢いを柔らかい身体の回転運動で維持し、増幅し、鞭のようにしなりながら、右腕から白球を弾きだした。
「!」
 バスッ! と、重い音を残してボールが津幡のミットに収まる。
「ストライク!」
 それは真ん中に近いところへのボールだったので、当然審判はストライクをコールしていた。
(結構、速いな)
 それでも相手に対して意外な余裕を感じた。なぜなら、晶の放るレベル1・5の速球にわずかに及ばない速さだったからだ。そして、手元での伸び具合も。
 晶の球よりも、打てる――――。
 二球目、じっくり見ていくつもりだったが、長見の得意な所に来たので思わずバットが出ていた。

 ギンッ…

「っ」
 鈍い音と、重い感触が手のひらで躍る。長見が叩いたボールは、力なくグラウンドを転がり、二塁手がそれを正面で処理し、ファーストに送球した。
「アウト!」
 そのきびきびした動きは、大一番であっても変わらない。数多くの重圧を乗り越え、勝利を重ねてきたチームの強みである。
「………」
 一方、平凡なセカンドゴロに打ち取られた長見は、自分の両手に残る鈍い感触に、自分のスイングミスを思った。
(やっぱ、あがってたかな)
 力が入ってしまい、振りが鈍くなったのだろう。あの絶好球に対して、強いあたりができなかったとは。
「おいおい長見クン」
「わりぃ、斉木。“じっくり”は、まかせた」
 たった2球で終わってしまったトップバッターのかわりに、斉木は相手投手の見極めという1.2番の仕事を押し付けられた格好になってしまった。


「どうだった?」
 ベンチに戻るなり、亮に捕まった。予想していたことだから、長見はとりあえず自分の印象を話す。
「レベル1.25ってとこかな」
「?」
「ちょっと前までの俺らなら、手も足も出なかったろうぜ」
「……なるほど」
 亮は納得する。晶のストレートを参考にするならば、レベル1よりも速いがレベル1.5には劣るということなのだろう。そして、その晶の球を練習で打ち込み、エレナや亮の指導のもと、レベル1.5の速球ならば、何とか食らいつけるほどに城二大の面々は打撃力を昇華させている。


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