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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-22

「あ〜あ、完全に二人の世界になっちゃった」
 苦笑しながら、端末と恋人を取られた玲子がため息をつく。
「ね、ふたりとも。コーヒーでもどうかしら?」
 玲子は、晶と長見を端末とは別にあるデスクの椅子に誘った。
「インスタントだけど」
 カンベンね、と断りを入れてから3つのカップを用意する。晶も長見も、ひとつ礼を言ってからそのカップを受け取り口に運んだ。
「とりあえず、ありがとうね」
 しばらく沈黙の時を過ごしていたが、玲子がそれを破る。
「正直、もう危ないと思ってたのよ……」
 玲子はそう言って、気まずそうな顔をした。
「顧問で監督といっても、私、あの二人に比べたら野球のことなんて全然だしね」
 というより、あのふたりのほうが異常といえるかも。これは、長見の声なき呟きだ。
「そりゃあ、監督をやろうってんだから懸命に勉強はしたけれど……ね」
 コーヒーを優雅に啜りながら玲子は呟く。彼女の書棚には、ある一角にビッシリと野球関係の書籍が並んでいる。その量に全て目を通したというのなら、彼女も相当に野球通であると言えるのだが。
「ところで……ね、近藤さん。木戸くんに、どうやって口説かれたの」
 うぐ、と喉を鳴らした晶。いきなり野球の話から逸れたではないか。
「女の身としては、すっごく気になるのよねぇ」
「あ、あのですね………」
 この人、本当に博士号の取得者なのだろうか? なんというか、そこらにいるゴシップ好きな現役女子大生となんら変わらない気がする。
「今日のあなた、すごく嬉しそうだったわ。木戸くんに投げることが、嬉しくて楽しくてたまらない感じで……恋する乙女そのものだったわね」
「あ、あの……」
 爛々と目を輝かせる玲子に、戸惑う晶。そして、面白くなさそうな長見。
(そんなに、わかりやすかったかなぁ)
 確かに、亮の構えたミットにめがけてストレートをほうるのは、とても気持ちよかった。球に注いだ思いを、彼が受け止めてくれているように感じた。あの時…甲子園を目指して戦っていたときと同じような昂揚感に、包まれていたのは間違いないことだ。
 同じ女である玲子は、そんな晶の乙女心を見抜いていたのだろう。
「で、二人は何処までいったの?」
「う……」
 まだ、キスだけです。でも、次の試合に勝ったらもっと凄いことをします―――などと、言える筈もない。長見もいることだ。
「あ、あの監督………」
 ナインの選出を懸命になって考えている二人を思えば、あまり野球に関係のないところで盛り上がると、悪い気がする。それを、玲子に告げると、
「ん〜、晶ちゃん可愛いわ……木戸くんも、幸せ者よね」
 逆に、からかいの材料にされた。
(も、もう……)
 見た目の清楚さとは思いもよらないノリの軽さに、わずかに辟易とする晶。
「まあ、冗談はこれぐらいで」
 ところが急に、その軽いノリは影を潜め、玲子は真面目な顔つきになった。
「同じ女として、あなたを応援するわ。あの時みたいに、あなたの懸命さを邪魔するものは、何もないから」
「!」
「存分に野球を楽しんで。信頼する木戸くんと、目いっぱい、ね」
 そして、ウィンクをひとつ。それが様になっていて、格好いい。
「あ、ありがとうございます」
「監督、俺もコーヒーもらっていいですか?」
 女の話が終わったとき、男の話も終わっていたようで、直樹の声が玲子を呼んだ。
「はいはい」
 すっかり覚えてしまった、想い人の味の好みにあわせたコーヒーを淹れる。
「あ……」
 俺もいいですか? と言いかけた亮には、すぐさま晶の声が飛んだ。
「木戸も淹れてあげる。……お砂糖は何個? クリームはどうする?」
「お、おう……」
 そのかいがいしさに戸惑いながら、亮は手にしていた新しいメンバー表に、今一度目を通した。
「はい、どうぞ」
「うん、ありがとう」
 晶がいれてくれたコーヒーを受け取り、それを口に含む。インスタントだというのに、とても美味しい気がしたのは、彼も男であるということだ。
「どう、決まったの?」
「ああ、とりあえずバランスのとれたスタメンになってるよ」
 玲子と直樹の、少し大人の空気を纏った会話。
「見せてもらって、いい?」
「ん? あ、ああ……」
 亮と晶の、なんだか初々しくも微笑ましいやり取り。
(………)
 そして不憫にもひとり、長見だけが蚊帳の外にいたのだった。




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