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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-21

 その日の練習は、とても充実していた。
 最下位を独走し、すっかり意気を無くしてしまっていた前後期の雰囲気からは、想像もつかないほどに、みな声が出ていた。あまりに張り切りすぎて、打ち身・擦り傷を身体に作るチームメイトが続出し、若干の医療の心得もある顧問兼監督・佐倉玲子までが忙しく立ち回っていた。
「おつかれー」
「よろしくな、近藤」
「何とか、足ひっぱらんようにするから」
 全員そろってのクールダウンを終了させ、めいめい散っていくチームメイトたちが、新しいエースにそれぞれ声をかけて家路についていた。みな、晶のストレートにそれぞれ対戦してみたのだが、バットにまともに当てられたのはひとりもいなかった。その時点で、晶は完全にチームの柱…エースピッチャーとして認知されたことになった。
「あ、いい……いいよぉ……」
「妙な声を出すんじゃないって……」
 晶のクールダウンの相手を務めているのは、当然ながら亮だ。これだけ集中的に練習したのは久しぶりというだけあって、晶の四肢はかなり張っていた。
「ね。遠慮しないで、もっと、内側のほうも…」
 太ももの屈伸をしているときに、晶がそんなことをいうものだから、亮は動きが止まってしまった。
「冗談よ」
 晶が、くすりと笑う。
「ホント、野球のときとは別人」
 サインの打ち合わせ練習をしているときは、どんなに顔が寄っても表情を変えない亮なのに、マッサージをしている今はその触り方がなんとなくぎこちない。そのギャップが、なんとも愛らしく思えてしまう。
「お邪魔して、悪いんだけど……」
 遠慮がちに、そんな二人に話し掛けてきたのは玲子だ。その傍には、直樹もいた。
「木戸」
 玲子の言葉を、直樹が継ぐ。
「今度の入れ替え戦のスタメンなんだが……」
「あ、いいっすよ。俺、時間ありますから」
 さすがに大学ともなると、メンバーのうちではバイトなどで時間を取られる者もいる。亮は長期休暇のときに短期でバイトを入れる主義なので、大学があるうちは平日の自由が多くあった。そして、その分を趣味の野球に廻しているわけだ。従って、一回生でありながら、今ではほとんど副キャプテンのような存在になっている。
 もっとも、レギュラークラスのメンバーがいなくなってしまったいま、そのことについて玲子や直樹が相談できるのは、野球についてかなり詳しい亮しかいないのだから、それも当然のことである。
「あたしも、いいですか?」
 晶は、まだ亮とは離れたくなかったので、そう頼んでいた。
「ああ、いいとも」
 そして、その申し出を断る理由などはない。
「俺も、いいですかね」
 すっかり影の薄くなっていた長見も、四人に頼む。もちろん、それも受け入れられた。
 場所は玲子の研究室に移された。ここにある玲子の端末には、今の部員の各種情報が収められている。それは、レギュラークラスが抜けて以来、現状の戦力を把握しようとした亮が作成したものだ。
(ほんと、野球が好きなのね……)
(ほんと、野球オタクだよな……)
 綿密なデータを見たときに抱いた、晶と長見の亮に対する感想である。
「とりあえず、完全に埋まっているポジションは……」
 投手・近藤。捕手・木戸。三塁手・高杉。………3つしかない。
「栄輔、センターいけるでしょ。あんた、足速いし」
「そうなのか?」
 亮は、いつも彼が捕手をしていたので、てっきりそれがポジションと思っていた。
「俺の本職は、代走だよ」
「足が速いなら、外野は充分任せられるよ」
 というわけで、暫定的に中堅手の空欄も埋められた。
(まあ、いいか…)
 自分の意志とは関係のないところでいろいろ決められるのはなんとなく面白くないが、自分の力が必要とされるのも、まあ悪くないと長見は思う。
「後は、経験していたポジションとかを考えて……」
「新村さんは、セカンドのほうが合うと思うんですよ。ポジショニングは、すごく光るものがありますから」
「原田の打撃は生かしたいな。背も高いからファーストで…」
「斉木は、完全にショートですよ。器用ですからね」
「それと……」
「それで……」
 それぞれの空欄を埋めていく直樹と亮。野球のことになると饒舌になる亮のそんな横顔を、晶は眩しく見つめていた。


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