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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-215

「……て、ことは」
 上島がすぐに、赤木の後方を確認した。すると、これまた本当に良く知る顔をすぐに見つけることができた。
「由梨さんじゃないか!」
「まあまあ、みなさん、おはようございます」
“由梨”と呼ばれた女性は、春日のような微笑をそのままに、優雅に頭を下げる。その柔らかな物腰が、温和な雰囲気と相俟って、非常に“和的な美”を感じさせた。
「応援に来ました」
「桜子もだよっ!」
 いまだ赤木の背中から離れず、幼い少女が元気よくはしゃぐ。見慣れたその様に、新村や長谷川はつい、口元を緩めてしまった。
「桜子ちゃん、は、離してぇな」
「まあ。桜子、龍介さんが困ってるわよ」
「えへへ、ごめんね、おにいちゃん」
 姉に諭されて、桜子は目いっぱいしがみついていた腕を離した。まだ小学生で、しかも女の子だというのに、大した力ではある。確かに、標準にくらべると、かなり大柄ではあるのだが。出ているところも、しっかり出ているし……。
「………」
 ごほん、あー、あー。……上島君、その視線は誰かに通報されるかもしれないから、やめておこうね。
「お嬢さん、来はったんですか?」
「父が、どうしても、と言うので……それに、私もあなたを応援したかったですし……」
「………」
 穏やかならざる雰囲気が二人の間に…。事情を良く知る3年たちは、ますます頬が緩んでいた。
「よかったな赤木。千人力だ」
 原田が、そう言った。少しだけ、淋しさがこもる口調は、おそらく本人しかわかりえないほどの、微かなものだ。
「あ、蓬莱亭の……」
 ようやく事情を飲み込めた亮と斉木は、いまだに状況を把握できていない晶たちにそれぞれ耳打ちする。彼女らは、この軟式野球部行きつけの大衆中華料理店“蓬莱亭”の、店主の娘たちであることを。
「赤木さんの、バイト先の」
 と、説明をされてなお、蓬莱亭に馴染みの薄い晶や長見は、厨房で快活に鍋を振るう女性の姿と、穏やかな立居振舞で微笑を絶やさない目の前の女性と、脳内での一致に時間がかかった。
「なんか、イメージが違うんだけど……」
 機敏な厨房での動きと、今の優雅な物腰が晶の中ではどうしても重ならない。予断だが、晶は蓬莱亭の海老シュウマイが特に好きで、これにチャーハンをセットで頼むのが極上の組み合わせ、と自ら証言している。
 ……話がそれた。やや乱雑になっている話を、少し総括してみよう。
 赤木のバイト先は、城南第二大学軟式野球部の行き着けである“蓬莱亭”であることは何度か触れた。そして、その蓬莱亭で店主の又四郎とともに鍋をふるっているのが、いま目の前でたおやかに微笑んでいる女性である。姓名を、“蓬莱由梨”という。
 そして、赤木の背中にかぶりついてはしゃいでいた女の子は、妹の“蓬莱桜子”。まだ小学5年生だが、それにしては大柄な少女である。中学生に見えるのは確実であるし、下手をすると、高校生にも間違われる可能性もある。その体格が示すように、運動全般を得意とし、近隣学区で行われる総合陸上大会では、長距離・短距離・障害全ての競技において1位を総ざらいにした。
 そんな桜子ではあるが、やはりまだまだ小学生。あどけなさを満面に、“お兄ちゃん”と慕う赤木の背中に、恥ずかしげもなく張りつく様は見ていて微笑ましい。
 この蓬莱姉妹は、当然、城二大野球部の顔なじみであり、また、よき話し相手でもあった。だから、三年次の面々にとって、姉の由梨は“心やすらぐ聖母”のような存在であり、妹の桜子は“愛くるしいマスコット”のような存在なのである。
 そんな二人の出現に、やや気負っていた赤木の雰囲気が少し和んだ。その様子に誰より安堵を感じたのは、原田であろう。
「さて」
 球場に入れる時間になった。それを見越したように、ふたつの影がメンバーたちのところへ近づいてくる。


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