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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-171

「けっ! ……まあ、次は白球丸の旦那だからな」
 “また、一発頼みますよ”と風祭は、チームの全打点をたたき出している彼に対しては腰が低く、傍から見て情けないほど卑屈である。
 白球丸こと管弦楽は、そんな風祭に一瞥もくれず、打席の中へ入った。
(管弦楽………)
 狂ったように奇行を繰り返す風祭が、彼にとっては初めて野球を教えてもらった“憧れの人”であると聞かされていただけに、さすがに管弦楽に対して京子は同情を禁じえない。
(あんた、辛いの……?)
 これまで打席に入る前は、あれだけ声高に何かをのたまっていたのに、今回の彼はまるで魂が遊離してしまったかのように、静かで朧な感じがする。それが、何故か京子にとっては気がかりで、胸に痛みが走った。
 気持ちの整理がつかないまま投じた初球は、真ん中に入る直球だった。
「ス、ストライク!」
 あまりの甘さゆえに、この強打者は振ってくると思ったか、審判はひとつ不可思議な間を置いてストライクを宣告した。
「?」
 なにか不審なものを感じながら京子は二球目を投じた。今度は外角にコントロールされているが、管弦楽を打ち取れるものかどうかどうにも自信がない。
「ストライク! ツー!!」
 しかし、これさえも簡単に彼は見送った。
(!? ま、まさかあいつ……)
 京子は三球目を投じた。ある意図をもって。
 ふわり、と浮かんだスローボールである。
「あっ!」
 フラッペーズの面々が息を飲んだ。素人目に見ても、これはまずいボールだ。しかも相手は、2本塁打の白覆面。
「!!」
 それと察した風祭も、狂気の喜色を満面にして身を乗り出す。
 誰もが京子の失投を思い、誰もが白球丸の強烈なスイングと美しい放物線を思い描いていた。
 しかし――――、
「!?」
 まずは審判が、絶句した。
 ボールはまるで何事も無かったかのように、静かな音をたててミットの中に収まったのだ。もちろん、ストライクゾーンを通過して…。
「ス、ストライク!!! バッターアウト!!!」
「なんだと!!」
 次いで風祭が吼えた。想像していた最高の結果を、裏切られたからだろう。
「ゲームセット!!!」
 だが、試合は終わりだ。4−2でフラッペーズの勝利である。
「………」
 2死1・2塁で、2本塁打を放っている白球丸(管弦楽)に廻ったから、最悪同点を覚悟していたフラッペーズナインは、あっさりと見逃し三振した打席の白覆面男(管弦楽)を、信じられないようにに見つめていた。
 勝利したという事実に対しての感慨は、なにもない様子である。
「お、おい貴様!!」
 ベンチから怒涛の如く風祭が飛び出してくる。そのまま打席で佇んでいる管弦楽の胸倉を掴むと、鬼気迫る表情で吠えかかった。
「わざと見逃しただろ! てめえ、なんでそんなことしやがった!!」
「………」
「この変態野郎!! 味方になるとか言っておきながら……俺をコケにしやがって!!」
 何も答えない白球丸こと管弦楽に向かって、風祭は血走った目を剥きながら、拳を振り上げる。
(カスがっ!)
 思わず京子が、マウンドから駆け下りようとした。
 しかし、それよりも早く風祭のところへ駆けつけた影があった。
「!」
 拳を繰り出そうとした風祭。だが、それは何者かによって遮られる。
「お、おい、離せッ!」
「………っ」



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